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投稿〉 「病院での差別体験」

 診察室に「よろしくお願いします」と入り、診察の開始を待っていると診察書の私の名前をじっと見ていた医師がこう切り出した。

 医師「あなたは名前が『キム』となっているけど、北ね南ね」

 私「国籍は朝鮮ですけど何か?」

 医師「私は北の人間は嫌いだ」

 最近同僚が、とある病院で「私は北の人間には本当は治療したくはないんだけど、まあ来たからしょうがないけしてあげる」と言われた話を聞いていた私はこの病院だったのかと思いつつ(後で同僚に確かめるとこの病院であった)こう言い返した。

 私「あなたは突然なにを言い出すんですか」

 医師「あんたたちは日本人を拉致しただろう」

 私「拉致の問題と私の治療とどんな関係があるんですか?」

 医師「あんたたちの国はとんでもない国だ。なぜ、日本人を拉致するんだ。私はあんたたちの国を許さない」

 私「あなたは国籍によって治療する人と治療しない人とを区別するんですか?そんなだったら私はこの病院で治療を受けません」

 私は一瞬このまま病院を出ようと思ったが、偏見に満ちた医師の考えをそのままにしておくのもどうかと思い、彼と話しあうことにした。

 私「本来医師の使命とは何ですか? 人の健康を促進し、人の命を救うのが医者としての使命じゃないですか? 仮にある日本人が犯罪を犯したとして、ほかの日本人が外国の病院での治療を拒否されたとしたらどんな気持ちになりますか? 逆の気持ちになって考えてください。どうですか?」

 医師「実際、あなたと拉致問題は直接的には関係ないかもしれんけど多くの日本人は今回の事には強く憤っている。なぜ、一般の罪もない日本人を拉致したんだ。あなたは国民としてこの事にはどう思っているんだ」

 私「拉致問題はあってはならないことであったし、それについては残念に思う。だけど私の治療と拉致問題とどんな関係があるんですか?」

 医師「直接あなたと関係ないかもしれないが、日本人として拉致は許せないんだ」

 私「あなたは拉致は直接には私と関係ないといいますが、間接的には私と関係あるというんですか? それはどんな関係ですか?」

 医師「…。記事にいっぱい載っとるじゃないか。送金問題とか…」

 私「…。それと治療とどんな関係があるんですか?」

 医師「で、治療を受けるの? 受けないの?」

 自分には非がないし、国際政治と治療の問題はなんら関係がないと思う私は治療を受けることにした。

 診察を終えた医師は、考えることがあってか、こう言い出した。

 医師「さっきのことは忘れてくれ」

 私「私もつい興奮して大きな声を出してすみませんでした」

 その後、看護婦に治療を受けた私に医師が近寄り謝罪を申し出てきた。

 医師「さっきはすまなかった。最近、拉致や北朝鮮報道を見る度に心にわだかまりがあり、言わずにはおれなかった。すまなかった」

 有事法制の準備のためか、北朝鮮脅威論を声高に叫び、連日、反北朝鮮キャンペーンを繰り広げる日本のメディア。それはまさに朝鮮への偏見や蔑視感情を日本の隅々に浸透させているのだと強い危惧を抱かざるを得なかった。(金再奉、九州朝鮮高級学校教員)

[朝鮮新報 2003.3.10]