外国人学校卒業生の国立大学入学資格(受験資格)問題と関連し文部科学省は3月28日、再検討するとしたが、これは在日同胞をはじめとする外国人学校関係者の粘り強い要請がもたらした結果と言える。とは言え、受験資格が認められたわけではない。文科省は今回、入学資格を決めるに当たって英米の評価機関をその基準にした理由について「広く評価されている機関だから」(高等教育局大学課の清木孝悦課長)と答えた。しかし、文科省は朝鮮学校の水準すら調査していないことも判明した。実態はどうなのか、いくつかの事例を参考に見てみた。 受験前からの差別 東京朝高の進学率は、80%に達している。その多くが朝鮮大学校や日本の大学に進学している。日本の大学の場合、国立大学は当初から受験資格すらないという壁のため、朝鮮学校卒業生にも受験資格を認めている公、私立を受験する生徒が多く、2002年度の卒業生は33の大学に入学している。 「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会(全受連)」が01年1月に実施した「民族学校卒業生の受験資格に関するアンケート調査報告書」によると、公立の51.5%、私立の49.9%の計262校が民族学校卒業生に受験資格を認めている。これらの大学は、学校教育法第56条(大学入学資格)1項の規定「高等学校を卒業した者と同等以上の学力があると認めた者」を根拠に独自判断している。 受験生は、少しでも負担を軽くするため受験資格を認めている大学を選択する傾向にある。例えば神戸朝高の場合、今春の卒業生134人中、50人が受験資格を認めている大学を受験したという。 入試に合格するか否かは本人の能力次第だが、その能力を試す以前に門戸を閉ざされるのは公然の差別としか言いようがない。 「文部省基準に合致」 朝鮮学校生徒が日本学校生徒と同等の学力を有していることは公・私立大の多くが認めている。だからこそ、彼らに受験資格を認めているのだ。
朝高卒業生が合格した主な国立大
東京大学、東京外国語大学、東京学芸大学、千葉大学、大阪大学、京都大学、神戸大学、奈良女子大学、名古屋大学、三重大学、静岡大学、金沢大学、島根大学、徳島大学、愛媛大学(順不同) |
本紙の調査では、朝高卒業生も別表のような国立大学に入学している。国立大の受験資格を得るため、通信制高校に通って受験資格を得るか、大学入学資格検定(大検)を取得するというハンディを背負ってのことだ。 さらに、自治体のいくつかの事例を見てみよう。 兵庫県の芦屋市教育委員会は1986年12月、朝鮮高級学校生徒に市の奨学金の受給資格を認めた。「@朝鮮高級学校のカリキュラム、設備、各教科の時間数などを調べた結果、文部省の定めた高校の設置基準にほぼ合致しているA国内の公・私立大学の多くは、民族学校卒業生に受験資格を認めているB同じ在日朝鮮人生徒で市立芦屋高校に通えば受給資格があり、民族学校だと資格がないのでは矛盾する」というのがその理由だ。 広島県と神戸市などは、朝鮮学校は学校教育法1条校に準ずる教育を行っているとの見解を公式に表明している。 文科省の時代錯誤の姿勢を是正、受験資格を勝ち取るまで引き続く運動の展開が求められる。(羅基哲記者)
大学受験資格を求める主な動き
94年10月 朝鮮高級学校校長会、国立大学協会に要請
12月 「朝鮮学校卒業生にも国立大学への受験資格を。その門戸開放を京都大学から」―「民族学校出身者の京大への受験資格を求める連絡協議会(民受連)」結成
95年6月 民受連、京大総長に1505人分の署名と要望書提出
8月 民受連代表の金海永さん(京大4年)が国連人権小委員会で実態について発言
96年6月 「民族学校の処遇改善を求める全国連絡協議会」(全受連)結成
98年2月 日弁連、5年にわたる調査の結果、受験資格の認定、公的助成問題で首相と文部大臣に勧告
6月 国連・子どもの権利条約委員会、受験資格問題など処遇差別是正を日本政府に勧告
8月 京都大学大学院理学研究科が朝鮮大学校卒業生の受験資格を認定。国立大大学院が朝大卒業生に受験資格を認めた初のケース
9月 朝大卒業生、京都大学大学院理学研究科に合格
11月 国連・自由権規約人権委員会、朝鮮学校の処遇について懸念表明
99年7月 朝高生の大学入学資格検定(大検)受検が可能に。文部省(当時)が受検資格から「中卒以上」を外し、満16歳以上なら誰でも受検できるよう改める方針発表。また、大学院の受験資格についても大学院独自の個別審査で認める方針発表
01年1月 全受連の「民族学校卒業生の受験資格に関するアンケート調査報告書」により、公立の51.5%、私立の49.9%の計262校が民族学校卒業生の受験資格を認めていることが判明
3月 国連・人権差別撤廃条約委員会、受験資格、チマ・チョゴリ事件などについて日本政府に是正勧告
8月 国連・社会権規約委員会、公的助成、受験資格などの差別是正を日本政府に勧告
02年7月 全受連、京大総長、同和・人権問題委員会、各学部教授会に要望書提出
03年1月16日 大阪、愛知、広島の代表が私学助成、大学受験資格など処遇改善を文科大臣に求めた23万9359人分の署名を提出。席上、河村建夫副大臣が「朝鮮・中華学校もインターナショナルスクールと一緒に認められるべきだと思う」と回答
2月21日 文科省が「アジア系の外国人学校を対象から外す方向で検討している」と日本のマスコミが報道
兵庫県外国人学校協議会、大阪府教育会代表が文科省に要請
27日 総聯中央教育局長が談話を発表し、文科省に公正な判断を要求
28日 東京で教育権利擁護のための緊急集会
3月5日 参議院議員会館で青商会、朝青、留学同、朝鮮大学校、朝高の代表らと国会議員が民族差別反対集会、文科省へ要請行動
6日 文科省、中央教育審議会の大学分科会で英米の学校評価機関の認定を受けたインターナショナルスクールのみに受験資格を与える方針を発表
7日 東京でオモニたちの緊急集会とデモ(19の都道府県から230人参加)
8日 東京で同胞緊急集会(約1000人参加)
63の朝鮮学校で公開授業
9日 文科省と財務省が来年度からインターナショナルスクールを一般の私立学校並みの特定公益増進法人に追加し、寄付した個人や企業の税制上の優遇処置を付与する方針と、神戸新聞が報道
10日 日本市民らで構成された「朝鮮学校を支援する全国組織準備会」が文科省に要請
11日 国立大の教職員が声明(3月28日現在、1436人が賛同)
12日 自民、公明、保守新党の与党3党の幹事長と国会対策委員長との会談、「(黙認できない)非常に大切な問題」との認識で一致
13日 東京の青商会、朝青、留学同が合同で、衆議院会館前で座り込み(翌日から20日まで文科省前で実施)
14日 日本の国立大学教授らの呼びかけで、京都で緊急集会(500人参加)
17日 日弁連が会長声明発表
朝・日の大学生らが院内集会
20日 東京で同胞青年学生集会とデモ(約1400人参加)
神戸朝高の生徒らが兵庫弁護士会に人権救済申立
24日 大阪の代表が各地の全朝鮮学園理事長名義の要望書を文科省に提出。席上、河村副大臣は「(朝鮮学校排除を)あえて検討しているということはない」と回答
26日 京都弁護士会、文科大臣と京都大総長に要望書
28日 文科省が記者会見。大学受験資格問題を再検討すると発表。遠山敦子文科大臣、参議院予算委員会で「アジア系の外国人学校の生徒にも道を開くべく、さらに検討を加えたい」と発言 |
[朝鮮新報 2003.4.2]
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