〈インタビュー〉 「ケリーは証拠を示さなかった」−オ・ソンチョル朝鮮外務省局長 |
ありもしない計画 ―今年に入り米国は、従来の態度を改め「対話の意志」を示し始めた。なぜ1月10日の時点でNPT脱退を宣言したのか。 1月6日、IAEA(国際原子力機関)理事会で採択された不当な「決議」が直接的なきっかけだ。検証可能な方法で「核計画」をすぐに放棄せよという内容だが、IAEA事務局長は数週間内にわれわれが「決議」を履行しなければ、この問題を国連安保理に付託し制裁を加えるという最後通牒まで行った。 こうした圧力騒動の黒幕は米国だ。核問題の張本人は米国なのに、「決議」はIAEAが米国の対朝鮮圧殺政策の下手人に成り果てたことを表している。 われわれが何をしたから制裁を受けなければならないのか。そもそもわれわれは「核計画」自体認めておらず、何を検証し何を放棄しろというのか。 ワシントンで年初、米、日、南朝鮮当局者による3者協議が行われ、核問題を対話の方法で平和的に解決することに関する問題が提起され、米国も基本的には合意したという。しかし、問題は条件がついているということだ。「先核放棄」の要求である。 こうした状況下で欧米のマスコミは、米国があたかも対話と協商を求めているのに、朝鮮がこれに応じていないかのように報じている。事態の真相を理解していない。われわれは対話をしようという立場である。対話が実現していない責任は米国側にある。 ひどい目にあった米国 ―今回の事態の発端は、「核開発是認」問題だ。真相を説明してもらいたい。 昨年10月、米国務省のジェームス・ケリー次官補が大統領特使として平壌を訪問した。 われわれの立場は、簡単に言えば、どんなことを言うのか聞いてみようというものだった。当時は、米国と対座しなんらかの問題を討議する必要性を特別感じていなかった。まず米国が朝米基本合意文を誠実に履行せよという以外に言うことはなかった。しかし米国側が平壌に来るというので、とりあえずは彼らの話を聞いてみよう、そして内容がわれわれの要求と合致するものなら、より高いレベルでも討論しようという姿勢で臨んだ。 しかし特使は、対座するやいなや突拍子もないことを言い出した。自分たちの衛星資料によると、われわれが濃縮ウランによる「核開発」を新たに地下で行っている、これは朝米基本合意文違反になるので即時中止しろと、ごう慢な論理を持ち出してきたのだ。 われわれは、こうした虚偽情報にも微動だにしなかった。米国はこれまで、不当な口実を設けてはわれわれに対する孤立圧殺政策にしがみつきながらも、一度も正確な資料を出したことはない。ならば証拠を出してみろとのわれわれの要求に、特使はその衛星写真も提出しなかったばかりか、どこで「核開発」を行っているのかという地域すら明示できなかった。 だからわれわれは特使に言った。あなた方は「核開発」をうんぬんするが、朝鮮は現実的に米国の核脅威を常に受けている。あなた方が引き続き強圧的な態度を取るなら、われわれは現時点で核兵器を持っていないが、自らを守るために今後核兵器はもちろん、それ以上のものも保有する権利がある。これは自主独立国家としての本性的な要求だ。そのような強盗のような要求を突きつけるなら話すことはない、と断固とした態度で突っぱねた。これがケリー訪朝の内幕だ。 ―権利を主張した朝鮮側の発言を、特使が「核開発是認」と錯覚したのか。 そのような余地はない。はっきりと言っておくが、われわれは最初の段階で彼らの主張する「濃縮ウランによる核兵器製造計画」を否定した。 われわれが見たところでは、米国の特使派遣は軽水炉建設もままならず基本合意文も履行されない責任は米国にあるという世論が頻繁に出始めたので、逆にわれわれに「合意違反」の濡れ衣を着せようとしたもののようだ。大統領特使の資格で圧力を加えれば、われわれが核開発も行わず、合意文も履行し屈従するだろうと読んでいたようだ。それに、万一われわれが「核開発」を認めていたら、イラクのように「査察」を強要することまで念頭に置いていたかもしれない。 しかしケリーは門前払いされたので、大きな打撃を受けたのだろう。彼は平壌を発ち米国に帰る途中、ソウルと東京で当局者らと会い記者会見を行ったが、平壌側と核問題を論議したという間の抜けたことしか言えなかったではないか。唯一の超大国の構想が水泡に帰した衝撃により混乱した頭では、あの程度の行動がせいぜいだったのだろう。 侵略放棄を法的に ―しかし米国は10日くらい過ぎてから、朝鮮が「核開発」を「是認」したと突然発表した。 ケリーが米国に帰った後、ブッシュ政権がわれわれの対応措置と関連した発言を恣意的に解釈し、世論を誘導するためにでっちあげたものだ。米国はこれを錯覚ではなく意図的にやったのだが、国際世論は朝鮮がまず「核開発」によって約束を破ったので、朝米合意が破たんしたものと錯覚してしまった。 われわれは朝鮮半島の核問題が再び取りざたされる状況で、新たな提案をしなければならない必要性を感じた。朝米不可侵条約の締結がそれである。 ―なぜ不可侵条約なのか。 もちろん94年の朝米基本合意文も法的性格を帯びている。その履行は米国とわれわれの同時行動措置によって保証されるが、こんにちの状況では合意文にだけ頼っていては、朝米間の敵対関係を解消することはできないではないか。 米国は、われわれが核兵器とミサイルで自国と同盟国を威嚇していると主張する一方で、われわれは米国が朝鮮半島周辺に各種の武装力を配置し、常時われわれに脅威を与えていると、正面から対立している。双方が侵略の危機を感じているということだ。このような憂慮をどのように払拭するのか。これは決して複雑な話ではなく、互いの侵略意思放棄を条約で法的に確認すればよいのだ。 言うなれば、朝米不可侵条約はケリーが平壌を訪問した際に顕著になった両国間の矛盾、対立点を一括解決しようという提案である。 従来からわれわれが主張してきた平和協定は、停戦状態、すなわち1950年代の朝鮮戦争が一時中断しているという状況に終止符を打ち、平和体制に転換しようというものであるのに対し、不可侵条約は主に核問題、つまり朝米間が互いに核の脅威を受け与える可能性から除去しようというところに目的がある。 1994年のジュネーブ合意については、すでに死文化したものと見ている。期待するものは一つもない。もちろん合意自体がなくなったのではないので、今からでも米国がわれわれに対する敵対視をやめ、態度を改めるなら合意は履行されるかもしれない。しかしジュネーブ合意では、今日の核問題の根本的解決はできない。 「仲裁案」は検討可 ―一部では、米国が朝鮮の体制是認と安全保障を文書で保証するという方法も議論されている。 現況の本質に鑑みる時、大統領の保証文書のようなもので問題は解決できない。この問題は、米国がそれを知ったうえですることだ。ただはっきり言えるのは、われわれには圧力の方法は通じないということだ。 現在われわれは、ブッシュ政権は二者択一の矛盾に頭を悩ませていると見ている。われわれが強硬措置を取ったことで、彼らの論理に従えばイラクのように軍事的方法で押さえ込まなければならないが、朝鮮に手を出せば取り返しのつかない惨禍を被ることは火を見るより明らかだ。しかし対話で不可侵を約束してしまえば、超大国としてのメンツに傷がつく。 ブッシュ政権は表面的には対話についてうんぬんしているが、実際には何を議題に対話をすべきかの決心がついていない。米国の対朝鮮政策の設計図は、まだ確定していないと見るのが正しい。現在、米国が対話をしようというのは時間稼ぎに過ぎない。 「核開発是認」問題を持ち出し窮地に立たされたのは、かえって米国のほうだ。特使を送り込んだはいいが、逆にひどい目にあったではないか。 自分たちの圧力に朝鮮が屈すると思っていたのに、かえってわれわれが強硬姿勢で対応したので、立場が完全に逆転した。われわれは、今回の朝米核対決ですでに主導権を握り、「勝利したたたかい」を行っている。大統領の保証文書をうんぬんしながら、妥協点を探す世論が飛び交っているが、こうした事実がまったくないのであれば、このような世論も出てこないだろう。現実は、米国がわれわれにひざまずき始めたことを如実に語っている。 ―周辺国が核問題解決のための「仲裁案」を出した場合、どのように対応するのか。 ロシアからはプーチン大統領の特使が平壌を訪問し、中国も朝米対話が実現すれば北京を会談の場として提供すると仲裁の意思を明らかにしている。 南の盧武鉉次期大統領も、核問題の平和的解決のために役割を果たすことができるとの立場を明らかにしたと聞いている。 われわれは周辺諸国が今回の事態の本質を見極め、核問題が正しく解決されるよう肯定的な役割を果たすのであれば良いことだと思う。しかし、現状況を正しく理解せず米国の側に立ち一方的な要求を突きつけるなら、かえって情勢を緊張させるだけだ。 米国と同等の立場で対話が行われるのなら、われわれも断る理由がない。対話の形式にもこだわらない。過去には次官クラスで一連の会談が行われたし、米国務長官が平壌を訪問したこともある。 確固とした意志 ―朝鮮の強硬姿勢には今後も変わりはないのか。 われわれがNPTから脱退するという重大措置をとることができたのは、金正日国防委員長が行ってきた軍事優先の威力があったおかげだ。われわれに強大な国防力がなかったら、大国である米国と堂々と渡り合うことはできない。 金正日国防委員長は93年の「核疑惑」事態から今日に至る10年の核対決戦で、常に主導権を握り米国を受け身に追い込むための方針を打ち出し、その実現のために力を尽くしてきた。 ケリー訪朝時の対応や今回の脱退措置はすべて、国防委員長の勇断によってなされたものだ。 朝鮮は、人口も領土も大きな国ではない。しかし、米国が大国を自称するなら当然われわれも大国の姿勢で思考し行動しなければならないというのが、わが指導者の確固とした意志であり変わらぬ立場である。(平壌発=金志永記者) [朝鮮新報 2003.1.25] |