現状に異議あり〈上〉−確認されていない情報 |
核開発 日本も兵器開発? 私たちの背を戦争へ突く汚れた手を明確に払いのけなければならない。その手は錯誤≠ノまみれている。 2002年10月17日。米紙ニューヨーク・タイムズは「北朝鮮が核兵器計画を持っていると発言」と報じた。ここからブッシュ米大統領による朝鮮民主主義人民共和国への重油50万トンの供給停止決定、つまり94年10月の米朝基本合意破りまでほんの一歩だったわけだが、その間の米国や日本の報道プロセスを追うと奇妙な点に気づく。「北朝鮮の計画」なるものが核開発なのか核兵器開発なのか判然としないのである。これこそが最重要事項にもかかわらず、米日の主要なマスコミはひとつの記事・ひとつの文脈に「核開発」と「核兵器開発」を平然と混在させている、愚かなことに同義語だとみなしているのだ。 核開発と核兵器開発は同一(同義語)ではない。日本原子力産業会議などによると、たとえば日本は2001年12月現在、52基(総出力4508.2万キロワット)の原発を稼動させ、5基を建設中で、さらに6基の建設計画を持っている(いずれも100万キロワット級)。これ以外にも周知のごとくウラン濃縮工場や再処理施設などの核施設を保有し、あまつさえ英仏や国内で20トン近くのプルトニウム(2300個以上の核爆弾相当量)を抱えてもいる。が、その日本の核展開を「核兵器開発」と呼ぶだろうか。02年10月初めに訪朝し、今日の「北朝鮮問題」を発火させたケリー国務次官補の言葉に耳を傾けたい。彼は同年10月19日にソウルでこう明言した。 「北朝鮮はウラン濃縮施設づくりの計画を進めている」 そして02年12月31日の米紙ワシントン・ポスト(社説)が、パウエル国務長官の「北朝鮮は90年代から2個の核兵器を保有していた」との発言に対しこう反論する。 「クリントン政権時に米情報機関が確認したのはピョンヤンの核弾頭製造ではない。おそらく(核兵器を)持つことが可能≠ニいうことだけなのだ。新しい未報告情報を暴露するなら、核兵器(の保有)はけっして確認されていない」 ありきたりの計画 過去も今も核兵器は決して確認されていない=B言い換えると「北朝鮮の核」の関連で確認し得るのは、いわばありきたりの核開発計画。まごうことなき核開発大国の日本(米仏に次ぐ世界第3位の原発帝国)と比べるなら極めて小さな、実験室レベルとしか言いようのない代物なのだ。 このことと併せ冷静に凝視すべきなのは、たとえば次のような現実である。ベトナム政府は、ちょうど「北朝鮮の核兵器問題」が発火した02年10月、ロシアと100万キロワット級の軽水炉建設(第1号炉)の協議を始めたという。同政府はさらに数十基の原発建設計画を持ち、とすれば当然、ウラン濃縮施設などが必要になる。そのベトナムにおける一連の核開発計画には既に日本と米国の原発企業連合が強く絡み込み、ちなみに1月初旬の山崎拓・日越友好議員連盟会長(自民党幹事長)の訪越目的のひとつは核ビジネスだったとの指摘がある。 要するに、日本やベトナムなどにおける核開発(展開)の現況は、とりわけ米日の「北朝鮮の核」を見る目がグロテスクに変形していることを証しているのだが、ところで、この「北朝鮮の核」とセットになっているもうひとつの錯誤をけっして見落とすわけにはいかない。誰が94年10月のジュネーブ合意を損壊したのかである。それは「北朝鮮」なのか、米国なのか。 米が損壊した合意 90年代から今日までの朝鮮半島をめぐる実態から顔をそむけてはいけない。チーム・スピリットなど米軍、韓国軍、日本軍(自衛隊)による「まさに北朝鮮を核先制攻撃のターゲットにした包囲演習」が連綿と続けられていたことは隠しようのない事実である。北朝鮮に対する核先制攻撃の一端は米国防総省の機密解除文書(米軍第4戦闘飛行団の活動)などが明示し、このような流れは周知のごとくブッシュ大統領の手で飛躍的に過激化されたのだった(たとえば02年9月のブッシュ・ドクトリン)。93〜94年の第2次朝鮮戦争突入の危機時、米軍が韓国軍を補助役にして作成した北朝鮮壊滅作戦計画「5027」は2年ごとに更新され今も生きている。おまけに、米国はジュネーブ合意の主要な柱のひとつである重油の提供をひどく渋り続け、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)の軽水炉2基(原発)の建設期限を勝手に03年から08年へ変更してしまった。 他方、北朝鮮側は? 何もしていない。ウラン濃縮やミサイル輸出はジュネーブ合意とは無関係。つまり、ジュネーブ合意を損壊するような行為は何もしていない。 としたら、なぜ「北朝鮮」なのか。なぜ朝鮮戦争なのか。(野田峯雄、ジャーナリスト) [朝鮮新報 2003.1.14] |