得たものは「自信」−02年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞した慎武宏さん |
東京朝鮮中高級学校出身で在日3世のスポーツライター・慎武宏さん(31)が「2002年度ミズノ スポーツライター賞 最優秀賞」を受賞した。受賞作は「ヒディンク・コリアの真実」(TBSブリタニカ)。日本最高権威のスポーツライター賞と言われる同賞はスポーツに関する報道やノンフィクションなどを対象にしており、今年で13回目を迎えた。外国人が同賞を受賞したのは初めてのことで、「実感がなく信じられないけど本当にうれしい。得たものは『自信』ですね」と笑顔で語る。 昨年行われたサッカーの「2002年 FIFAワールドカップ」。 アジア初のベスト4進出という偉業を達成した南代表チームの勇姿は全世界を驚かせ、多くの在日同胞たちも熱い声援を送った。選手の気迫と国民の盛り上がりは鮮烈で、その熱狂ぶりは記憶に新しいところだ。 慎さんが執筆した「ヒディンク・コリアの真実」は、南代表チームが、W杯ベスト4入りするまでの約500日を取材したノンフィクションで、フース・ヒディンク監督と選手たちが困難をいかに乗り越えたのかを検証した単行本だ。 「96年5月31日にW杯韓日共催が決まったとき、『自分がすることはこれだ』と思った」
慎さんは、97年から南代表を追いかけて本格的な取材を始めた。 月に一回は南に足を運び、なんのツテもないまま、香港、アメリカ、スペイン、ドイツ、ベルギーと国際Aマッチに同行し、世界各国を駆け回った。選手や関係者、記者、サポーターたちに顔を覚えてもらい、一歩一歩確実に人脈を広げていった。 「当時、日本も韓国も互いのサッカー事情に乏しかった。両国の文化を肌で知っている自分にはできると思った。誰も手をつけたことがないことをやってやろうとがむしゃらだった」 実際、南へ足を運ぶと代表選手たちの反応はとてもよく、選手の中に慎さんのことを知らない人がいなくなったほど。 「朝鮮学校を卒業してウリマルを話せるというこれ以上の強みはない。選手たちもそんな自分をすんなりと受け入れてくれた」 そんな慎さんのひたむきな仕事ぶりに関係者たちは取材協力を惜しまなくなったという。 現在は、「週間サッカーダイジェスト」や「Number」などのスポーツ雑誌の執筆も多数あり、スポーツライターとして第1線に立つ慎さんだが、「フリーライターを始めた2、3年ほど、先の見えない暗い時期もあった」と当時を振り返る。 いくら経費をかけて取材し、雑誌編集部に企画を持ち込んでも不採用が続いた。そんなときはウリハッキョの先輩や同級生、同胞たちがいろいろな面で手伝い応援してくれた。 「つらいことも多かったけど、応援してくれる人たちのために最後までやってやろうと決心していた。今ではライター志望の在日の子からメールや連絡がよくきます。本当にうれしいことです」 ライターをやってきて今まで得たものは「自信」だと話す慎さん。 「家族や同級生、両国のサッカーファンたちが『慎武宏』の記事を読んで喜んでくれればそれ以上にうれしいことはない。初心に戻り前進あるのみです」(金明c記者) [朝鮮新報 2003.4.7] |