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映画「ウトロ・家族の街」制作−監督は京大生の武田倫和さん

監督の武田さん

 映画監督・原一男氏が次世代ドキュメンタリー作家育成のために開いた「CINEMA塾」。「ニッポンの家族像」をテーマに制作したその作品の中から、京大4年生武田倫和さんが演出した「ウトロ 家族の街」が、観客賞に輝いた。

 監督の武田さんは大阪・阿倍野生まれ。中学校教師の父が朝鮮語や朝鮮問題に取り組む姿を幼い頃から見ながら成長したため、日常的に在日朝鮮人への関心を寄せてきたという。

 そんな武田さんが、ウトロ地区に入ったのは01年の秋だった。このあたりは、戦時中に京都軍事飛行場建設に従事させられた朝鮮人労働者たちの飯場が数多く立ち並んでいたところ。日本の敗戦によって飛行場建設は中止され、残された1300余人の同胞労働者と家族はそこで生活を始めた。現在、飛行場跡は自衛隊の駐屯地となり、飯場だった場所は在日同胞70世帯230人が暮らす街となっている。

 映画は立ち退き問題に揺れる徐信雄さん(57)の一家を2年間追う。この家族を中心に、ウトロに暮らす人たちの民族性あふれる法事やふれあいが情感あふれるタッチで描かれていく。

ウトロの街への熱い思いを語る徐さん

 徐さん一家は86歳のハルモニをはじめ4世代が共に暮らす大家族。映画は旧正月に行われる朝鮮式のチェサの場面から始まった。女たちがかいがいしく働き、男たちが正装で祭壇にぬかずく。

 武田監督は「ウトロを囲む回りの日本人の街は、家族の崩壊など豊かさの裏で人心の荒廃が進んでいる。しかし、ウトロは世代交代や難しい問題を抱えているが、家族が寄り添って、温かいヒューマンな街を作ってきた。何より素敵な暮らしがそこにあった」と語る。

 映画は立ち退き問題に取り組む人々も丹念に追っていく。朝鮮総聯と民団の調査。住民の住み続けるための権利要求を棄却した最高裁判決への住民たちの不安な表情。住民を支援する学生たちのフィールドワーク。その闘いを支える家族の絆の強さも美しい。とりわけ、信雄の妻・春子が熊本出身の日本人であることに驚く。結婚後ウトロに入り、3男1女を育てながら、朝鮮の風習を身につけ、チェサもキムチ漬けもすべてこなすどこから見ても「朝鮮の肝っ玉オモニ」。また、信雄の弟の妻・貞子はウトロの街に農楽サークルを作り、夏祭りのオープニングを飾るなど地域との交流にも熱心だ。

 武田さんは「人が寄れば、酒盛りが始まり、歌が飛び出すウトロの生活は、本当に魅力的。この平和な暮らしがいつまでも続いてほしいという願いを込めて映画を作った」と語った。

 「ウトロ 家族の街」は6月18日から21日まで、東京都千代田区にあるアテネ・フランス文化センターで上映される。問い合わせ TEL 03・5360・1668。(粉)

[朝鮮新報 2003.5.14]