高麗人参余話(5)−生命支える原動力 |
現代医学が普及する前、私たちの先祖は主に身近にある自然界の木や草の根、茎、樹皮、葉、果実、花、種子などのうち、薬効が明らかなものを用いて病気に対処してきた。これらを生薬と呼んでいる。韓国の大河ドラマ「許浚」で内医院の医師達がまるで楽器を演奏するかのように3本の指で押さえたり、離したりしながら患者の脈を診断したり、ハリで治療する場面があった。また、患者の治療に山から採ってきたくすりを与える場面がよく出てきた。 東洋医学では、人は気、血、水(津液)の3要素から成り、相互が円滑に作用しあって健康が維持されるとみる。私達は普段、意識していないがいつも「気」の中に住んでいる。「気」とは目には見えないが体の隅々にまで働いて、生命を支えるすべての原動力となっている。血液などの物質が体の中を動けるのはすべてこの「気」のおかげとみる。人が生まれると宿り、人が死ぬときに失われる生命エネルギー、それが「気」である。 ウリマルには「気」のつく語彙が多い。日気、気候、気象などの天気にかかわるものから生気、精気、活気、勇気、血気などの活力にいたるまで数多い。周囲を囲んだ雰囲気、匂いがするのは香気、火をつければ熱気、酒を飲めば酔気、スターになれば人気が出る。 東洋医学独特の「気」という考え方を知ることが人蔘の効用を知る上でも欠かせない。健康な状態ではこの形のない「気」の流れが順調であり、ストレスや強い感情の変動によって「気」の滞りが起きて「気」が病むことを病気という。気滞から精神異常や張り、こり、痛み、神経性胃炎などの多くの病気が生じる。気持ちが軽やかでのびのびとしていることが、体の働きを健康な状態に保つ上で必要である。くよくよしたり、ひとつのことにこだわって考え込んだり心配や暗い気持ちは「気」の停滞を生む。 数百種の生薬があるがその中でもとくに、「気」を正してくれる生薬を「霊薬」という。霊薬の中でもとくに高価な生薬が人蔘である。人蔘は補気薬として体のバランスを保つのに欠かせない。(洪南基、神奈川大学理学部非常勤講師) [朝鮮新報 2003.6.6] |