〈みんなの健康Q&A〉 心の健康(上)−子どもの心の誕生 |
Q:娘は1歳6カ月。先月弟が生まれた頃から、私の姿が見えなくなると狂ったように泣いたり、聞き分けの悪い行動が目立ってきました。 A:1歳半前後の子どもは心の発達からみると非常にホットな時期です。泣いたり、笑ったり、甘えたり、怒ったり、威張ったりと、大人が対応するには非常にやっかいな時期でもあります。よちよちと独り歩きを始め、「オンマ」、「アッパ」などの単語が出てくる頃、心理的にはその子固有の自我がはっきりと芽生えてきています。胎内からオモニとの共生関係が続いていた赤ちゃんの心が孵化し、実は自分はオモニから分離した別個の固体なのだということを認識し始める時期とも言えます。ご心配されているお子さんの行動は、この時期によくみられます。 Q:初めは誰にでもなついて育てやすかったのですが、10カ月頃から人見知りがひどくなって…。 A:人見知りは一般に9カ月頃から始まります。人見知りが始まったということは逆に言うと、それまでにオンマとの愛着(アタッチメント)がしっかり形成されてきていたということ。オンマとの愛着がしっかり作られてきたからこそ、赤ちゃんにとって依存対象であるオンマ以外の人に不安を抱くことになるのです。生後1年の間に、乳児が依存対象(主にはオンマ)とどのような愛着パターンを形成したかということは、その後の人生において、心の健康度を左右するといっても過言ではありません。 Q:愛着(アタッチメント)とは何ですか? A:子どもがオモニに対して抱く愛情のきずなのことです。母子相互関係システムについて研究したJ・Bowlby(英国の児童精神科医、精神分析医)は、乳児の愛着パターンに、赤ちゃんの要求とオモニの対応がしっかりかみ合い赤ちゃんが安心感と心地よさに満たされ守られていると感じられる「安定型愛着」と、赤ちゃんとオモニのやりとりがしっくりいかず赤ちゃんがそれに耐えている「不安定型愛着」があるとしました。「不安定型愛着」を形成した子は、オモニ以外の人とのふれあいにおいても緊張を想定し、心理的にストレスを抱えやすい。 Q:うちの子は「安定型愛着」を形成できているのでしょうか? A:ふつう心が健康なオモニは、理屈抜きに赤ちゃんをいとおしく思い、世話していくことで、自然に「安定型愛着」を形成していきます。子どもはオモニとの愛着を形成しながら、4カ月頃から心理的に分化期、10カ月頃から分離の練習期に入る。18カ月頃には独り歩きをして行動範囲も広がり、身体的にオモニから離れる瞬間が多くなるが、心はまだゴムひもでつながっているように、オモニを安全基地として離れたり戻ったりしています(再接近期)。新しい世界を歩き回る喜びを感じる一方で、オモニと離れることへの不安を同時に感じ、激しく揺れ動きます。だだをこねたり、かんしゃくを起こしたり、深い無力感におそわれたり、強烈な分離不安が生じたりするのはこの時期です。これは子どもにとって一種の心理的危機で、これを再接近危機と呼びます。オモニという対象の代わりに、子どもがボロボロになったタオルを離さなくなったり、いつもお気に入りのぬいぐるみをかかえているような姿がみられるのもこの時期です。M・S・Mahler(米国の小児科医、児童精神科医)は、これらの心理的誕生の過程を「分離―個体化過程」と名づけ理論化しました。子どもは、この危機を養育者とともにうまく乗り越えられると、オモニの存在を心的に内在化させ、オモニの不在に耐えてオモニが帰ってくるのを待つことができるようになる。再接近期は、子どものかんしゃくやかたくなな頑固さ、手のつけられない反抗などのために、親や保育者がついキレやすくなる時期。しかしこの過程を大人の都合で仕切られすぎたり、十分にやりきることができないと、炊き上げきれず芯が残ってしまったお米のように、子ども心に硬いものが残ってしまい、成人してもそのぎこちなさに苦しむことになります。 お子さんは今、「分離―個体化過程」の再接近期にいると言えるでしょう。個体化が確立する前に、しかも心理的危機に突入した頃に弟が生まれたわけです。娘さんは、自分に向かっていたオモニの関心が、全部弟に奪われてしまったと感じているのです。 Q:具体的にどうしてあげたらいいでしょうか? A:乳幼児はともかく、抱っこやおんぶを通して、ありのままの自分が無条件に愛されている実感を日々確認できることが大切です。そこに姉と弟の差はなく、「お姉ちゃんだからしっかりしなさい」という考えは通用しません。弟に手がかかる日々の中でも、1日に必ず1回は娘さんだけに向き合う時間を10分でもいいから作り、思いっきり触れ合ってあげてください。 [朝鮮新報 2003.6.27] |