top_rogo.gif (16396 bytes)

〈みんなの健康Q&A〉 心の健康(下)−子を育む家族機能

 Q:反抗期とよくいいますが、いつ頃のことをいうのですか?

 A:今日では、幼児期(第1反抗期)、思春期(第2反抗期)をあげる2期説が一般的です。これらは子どもの成長の過程で、大きな波が襲ってくるように訪れます。幼児期、自我意識が芽生え、自己の主体性を顕示して親や周囲の大人に対しやたらと自己主張をする時期は、前回お話したM・S・Mahlerの「分離−個体化過程」に一致します。思春期、自己を深く見つめ、「私は誰?」と自己のアイデンティティーを確立し生きる意味を考える過程で、親だけでなく権威や社会体制に対しても反抗が向く時期を、P・Blos(米国の児童精神分析医)は「第2の分離−個体化過程」とよびました。いずれも自我意識の芽生えに伴う正常な現象で、子どもの人格発達上、重要な意義を持ちます。

 Q:長男は今、第2反抗期にいると思うのですが、ちゃんと乗り越えてくれるか心配です。

 A:乳幼児期に安定した愛着行動を示した子は、一般に思春期も安定していると言われます。しかしこの時期はどの子も、外からは平穏に見えても内心大きな地震を体験しています。子どもは、ホルモン分泌、二次性徴の発現に伴うめまぐるしい身体的変化に対応するとともに、心理的には、それまで自分がよりどころとしていた親を規範とする基盤から脱皮し、その子固有の新たなアイデンティティーを確立するという課題に取り組まなければなりません。この時期、家族や周りの大人がどの程度強調し、子どもを信頼して、暖かくしっかりとした器で対応するかが重要になります。

 Q:家族はどのような点に気をつけたらいいですか?

 A:家族には、基本的に以下のような3つの機能があります。@父母連合(parental coalition)〜アボジとオモニが一体となってよきパートナーシップを発揮すること。アボジ、オモニがお互いにいがみ合っているような家庭では、子どもは大好きなアボジ、オモニの心配ばかりが先立ち、落ち着いて自分の本来の課題に取り組むことができません。A世代境界(generation boundary)〜親の世界と子の世界に一線が画されていること。子どもが家庭の経済を心配したり、常にオモニの悩みを聴く相談相手になることなどは、子どもらしい世界で生きることを許さず、子どもを親化(parentification)します。姑が過度に息子夫婦や孫の育て方に口出しすることなども、子ども世代の本来の役割を混乱させる結果を招きます。B性差境界(sexual boundary)〜アボジと息子、オモニと娘の距離は近く、異性の距離は適切に保たれている必要があります。

 健全な家族の支えがなく身近に信頼できる大人との出会いがない子は、思春期の心のエネルギーを建設的に消化できず、自分の考えや感情を言語化して心に安定感と自由を得る代わりに、行動化(家庭内暴力や非行、自殺などの行為障害)、身体化(心身症や拒食症、神経症などの精神障害)など、いずれも自己破壊的な症状に走りやすくなります。逆にこれらの機能が自然と保たれている明るく暖かい家庭は、思春期の子どもの荒れにもほどよく対応でき、子どもの自己実現を助けていくことができます。

 われわれコリアンは、家庭の中で長年夫婦喧嘩にさらされて育ってきた子どものように、北(アボジ)と南(オモニ)のいがみあいに苦しみ、社会的基盤(家庭)の不安定さから人生を翻弄され、自己実現への道を阻まれてきました。特に在日コリアンの子どもたちは、アボジ、オモニ、ハラボジ、ハルモニたちの努力によりかつてに比べれば日本でかなりの市民権を得てきたとはいえ、まだまだ自己のルーツを探りアイデンティティーを確立する過程で、「ぼくはどこからきたの?」、「わたしの居場所はどこ?」と、日本の若者以上に自己との深い対決を迫られます。子どもたちがこのような深い存在の不安に立ち向かっていく心の支えとなるのは、まぎれもなくそれぞれの健やかな家庭です。在日コリアンが社会での居場所に悩む時、アボジ、オモニにすべてを受け止め愛されて育った家庭での確固たる自分の居場所を思い出し、力が湧いてくるのです。

 わたしたちは、これからの世代の子どもたちが真の自己実現に向かっていけるようにするためにも、一日も早く北と南が手を取り合って仲良く暮らす安定した社会を取り戻したいものです。(慶應義塾大学病院小児科医師、崔明順、新宿区信濃町35 TEL 03・3353・1211)

[朝鮮新報 2003.7.4]