top_rogo.gif (16396 bytes)

朝鮮の食を科学する〈17〉医食同源の奇跡の健康食、参鶏湯

 参鶏湯は日本でもよく知られる朝鮮の薬膳料理といえよう。漢方の薬用人参などを雛鳥の腹に詰め、土鍋でじっくり煮あげたものである。薬用人参のほかに棗、ニンニク、糯米が使われるが、漢方材の黄耆が用いられることもある。薬用人参は6年根(6年育てたもの、薬効成分が多い)が使われると本物だが、商品として出回っているものには6年根は少ない。ちゃんとした材料が使われているものは、価格も高くなっている。

文献で見る最高の鶏料理

 この料理の歴史はそんなに古くない。

 参鶏湯の原型とみられる料理が「七香鶏」という名でみられる。「肥えた雌鶏の内臓を除き、ゆでた桔梗の根1本、生姜4〜5片、ネギと山椒ひとつまみ、しょうゆとゴマ油、酢などの調味料を詰め、壺の中に入れて油紙で封をし、皿をかぶせて湯煎する」とある。一種のチム(蒸し)型料理法である。薬用人参はない。

 さらに文献では、この料理法が鶏料理の中でも最高に属するものとしている。

 一方、朝鮮の北部の咸鏡道地方に、夏の暑気払い料理として雛鳥料理がある。この流れをくむとみられる「タッコム」料理は鶏の腹を抜いて薬用人参、棗、糯米を詰めて蒸し上げている。蒸し料理でありスープ(湯)はないが人参がある。

 今日のようにスープたっぷりのスタイルになったのは比較的新しいとみられ、李朝時代の宮廷料理メニューにもスープものはない。

 鶏肉と人参をスープ料理にしたことで、はじめてこの呼び名を「鶏参湯」と呼んだ。それがスープメニューの始まりである。参鶏湯より先にあった呼び名で、いまでも使われている。

 鶏肉は牛肉とは異なり、脂肪が肉質の中に混ざりこんでない分、味が淡泊で食べやすく、この材料を手に入れるときが、春雛が成長した夏である。酷暑の夏バテに利用される。

 現代のように畜肉料理が豊富でなかった時代、脂肪分たっぷり、肉質が柔らかい、ということは栄養料理の条件であったろう。

栄養価値高める知恵

 さらにこの栄養価値を高める漢方薬材を加える知恵が重ねられる。

 薬用人参は強壮剤、胃腸の衰弱による新陳代謝機能の弱まり、それに伴う食欲不振、消化不良、嘔吐、下痢症に用いられるし、病弱者、高齢者の健康増進に使われる。

 黄耆(キバナオウギの根)が用いられる場合、顕著な血圧降下作用が期待される。脂肪分、タンパク質の栄養たっぷりに、強壮効果の人参による血圧上昇を抑えるバランスをとってくれる。

 棗は内蔵の調整役を果たしてくれて、いわゆる緩和作用があるとされる。最高の薬膳だ。

 参鶏湯には野菜、果物などの生ものは禁物である。人参の効果を減ずるということからで、棗、黄耆などは乾燥品であることが条件である。もちろん薬用人参も乾燥品を利用されることが通常であったが、近年は生人参を用いられることが見られる。

 「韓国」の市場では自由に薬用人参を求めることができる。生人参、乾燥人参、そして山参というのも見かける。

 かつてこれらの高級漢方薬材を使っての参鶏湯料理は自家製で、いつでもつくられるものではなかった。生活に余程のゆとりがなければつくれなかった。病人や高齢者へのお見舞いに土鍋で仕上げた手づくり参鶏湯が使われることがまれには見られた。

 いま「韓国」には参鶏湯を食べさせる店が多くあるが、それだけを専門にというところもある。

 「元祖・参鶏湯」の看板をかかげたところをソウルなどで見かけるが、果たしてどこまでが「元祖」なのか、甚だ頼りないと、ソウルの人たちは言っている。そんなに古い外食産業ではないと見てよいだろう。

 それでも焼肉のプルコギ、ピビンパプ、チヂミなどのおいしい食べものと共に薬膳の典型ともいえる参鶏湯は、まちがいなく朝鮮を代表する肉料理である。

 4月に、ソウルの城北区の専門店でいただいた味は忘れられない。案内してくださった大学の先生の食べ方を見習った。

 先ず、出された参鶏湯の具をよくほぐす。味つけは塩と胡椒で小皿でまぜておく。取り皿の器に参鶏湯を食べるだけ移し、塩胡椒で味つけする。焼酎をストレートで一杯きゅっと飲む。口の中が洗われた感じだ。それから鶏肉を食べ、スープを飲むという順序。すべて匙を用いる。最後に少し残った汁にご飯を合わせ、「クッパプ」にしていただいたときは「満福感」そのものであった。(鄭大聲、滋賀県立大学教授)

[朝鮮新報 2003.7.17]