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〈大阪帰還公演「ハナ・アリラン」〉 舞台の魔力が生み出す一体感

 7月18日の「ハナ・アリラン」の舞台では、はっきりした時代性が、浮き彫りになった。そこには南北朝鮮の和解と統一への強い意志と日本で繰り広げられている拉致や核問題騒動へのアンチテーゼともいえる憎しみではない平和のために生きる在日同胞の姿が刻み込まれたのである。

 時代をリアリティーに取り込み、在日同胞の民族を守る苦闘史を悲喜こもごも描いた「ハナ・アリラン」が、南で絶賛されたことはすでに本紙既報の大阪文芸同委員長の許玉汝さん、演出家・金智石さんの原稿で報告されている。

 果たして、同じ熱い共感が大阪の観客の間でも起こりえるか。出演者らの杞憂もそこにあったが緞帳があがると、それは吹き飛んだ。

 幼い頃から日本で差別を受け、そのはけ口を華やかな有名人の物まねに求めてきたしがない役者を演じるのは邵哲珍大阪・生野南支部委員長。若さいっぱいのリアルな演技で爆笑を誘っていた。

 一方、舞台のすべてが、この中に凝縮されたといっていいセリフを一挙に吐き出したのが許玉汝さん。原稿の長さにすると1600字程もある。長いので要約して紹介すると―。

 「…90年代、バブル経済が崩壊すると、その衝撃は同胞社会にも容赦なく押し寄せてきた。多くの同胞たちが職場を失いさまようだけじゃなくて、幸せな家庭まで崩壊し始めたのよ。父親が失踪したり、何人かは捕まり、自殺したり、離婚したりで家族がバラバラになって、子供たちの犠牲の大きかったこと。祖国を取り巻く事件の度に何の罪のない子供たちが脅かされ、チマ・チョゴリが刃物で切り裂かれ…。その上朝鮮学校に行かせるためにかかる金と言ったら…。以前のように北からの援助もなく、南の方じゃ、同じ民族なのに北の住民は助けられないと見向きもしなかったし…日本の行政は、日本の学校の何10分の1しかならないお金しか払ってくれないし。…」

 このセリフはまだまだ、続くが、この場面で観客と舞台は、南でも大阪でも一体化して、会場にはすすりなく声も漏れ出した。何より許さん自身が練習、本番毎に込み上げる涙を抑え切れなかったと話す。

 「ウリハッキョの先生には、多分、誰でも経験があるはずです。私の教え子のアボジも多額の負債に抗しきれず自殺し、子供たちもウリハッキョから出ていった。あの悲しい別れをいつも思い出すんです」

 時代の荒波の中で翻弄され、挫折を余儀なくされた無名の人々を若い役者たちの体当たりの演技も好感を呼んだ。彼らの葛藤や悩みは、実はそれはそのまま若い役者たちの等身大の今を活写し、さらに日本で生きる3、4世たちの姿を照らし出す。

 ヒロインを演じた卞怜奈さんは、ウリマルを習い始めてやっと2年目。父が日本人、母が同胞というダブルの家庭で育った。常に自分が何者であるかに悩み、サマースクールで知り合った朝高生の「なんで、ウリマルしゃべれへんの」の何気ない一言に傷ついたこともあった。そんな卞さんを徹底的にしごき上げた金智石さんも「南でも彼女のウリマルと熱演には、『頑張った』という暖かい拍手が送られ、胸にジーンと来るものがあった」と言う程。卞さんは「『民族は一つ』を実感した南の舞台体験を糧に、今後もウリマルにもっと磨きをかけたい」と目を輝した。

 民族を守り、ウリマルを取り戻すまでに費やした在日同胞の力強い歩み。それは今回の公演で南の人々の心に忘れがたい印象を残した。そうした成果を確認した大阪での帰還公演は、同胞たちの惜しみない拍手に迎えられ、幕を下ろした。

 大阪在住の詩人・李芳世さんは「公演を観ながら南の詩『命を賭けろ』を思い浮かべました。『アイは(子供)は愛、アイは私自身」という劇中のセリフに舞台に立つ出演者全員の胸の鼓動が伝わって来ました。命を賭けていると思った」と賞賛した。(朴日粉記者)

[朝鮮新報 2003.8.2]