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〈みんなの健康Q&A〉 廃用症候群(上)−症状と対策

 Q:近頃高齢者の寝たきりについて話題になる事が多いのですが、主な原因はなんでしょうか?

 A:現在日本における寝たきり高齢者は、加齢と共に増加し、65〜69歳までに1.5%、80歳以上では20.5%に達し、その総数は120万人と言われており、虚弱など「寝たきり予備軍」を加えるとその数は倍増し、20年後には520万人に達すると見られております。主な原因としては、脳血管障害(30〜50%)、骨折(約15%)などが挙げられますが、これら疾患により直接寝たきりになってしまうものよりむしろ、発症前後のケアが不適切だったために2次的機能障害=廃用症候群(disuse syndrome)に陥った結果、寝たきりになってしまうケースが殆どです。寝たきりのうち、1年以上は全体の74%、3年以上の長期にわたる方も全体の53%にのぼり、これはさらに長期化する傾向にあります。

 Q:「廃用症候群」とはどのような状態をいうのですか?

 A:「本来失われるべきではない機能が、適切に使われなかったために機能しなくなってしまった状態」と定義され、1940年代、米のラスクらによって確立された概念で、次のような状態をいいます。

 @筋萎縮(非活動性萎縮)〜安静にしていると、1日で最大筋力の3〜5%が失われ、1ヵ月でもとの筋力の4割程度まで低下します。

 A廃用性骨萎縮(2次性骨粗鬆)〜体重を支えたり、筋肉との作用が少なくなる等、機械的刺激の低下によって起こり、骨折や尿路結石の原因にもなります。麻痺側に顕著に見られます。

 B関節拘縮〜関節の動く範囲(可動域=ROM)の制限は、関節自体の変化(強直)よりも、動かさないことにより周囲の筋や組織が短縮されることによって起ります。

 寝たきりは、これらの状態が継続した結果起るもので、じょくそう(床ずれ)、起立性低血圧(立ちくらみ)や静脈血栓などの循環障害、うつや人格障害といった精神的合併症、失禁や便秘等、およそ全生体機能に悪影響と悪循環を及ぼし、やがて呼吸器や尿路感染といった重篤な結果をもたらします。

 Q:廃用症候群にならないようにするには?

 A:高齢者は、たとえ病気にならなくても生理的な機能の低下によって、様々な問題を抱えるようになります。従って重要な事は、日頃からこれらの問題を理解、解決することによって、「自立した生活」を保証し、不必要な体力の低下を防ぐ事です。高齢者の抱える障害とそれに対するアプローチは、発生機序に従い3つに分類されます。

 @機能形態障害(impairment)〜障害の1次レベルで、疾病によって直接おきる麻痺等の他、加齢によって起る生理機能の低下〜筋力は個体差が大きいものの、通常65歳で、20歳のときの約半分まで低下します。またホルモンの分泌等、各生理機能の変化により骨も脆くなり(1次性骨粗鬆)、内臓器官の萎縮も顕著になります。このような変化は、体の予備力(通常能力と最大能力の差)を低下させるため、ちょっとしたことでケガや病気に見舞われ易くなり、代謝能力や適応力といった機能柔軟性の欠如から、回復に時間が掛かるようになります。さらに、思考力など脳機能の低下も起ります=体に直接働きかける「予防、治療的アプローチ」。

 A能力障害(dis ability)〜普段一般的に行う事の出来る、身の回りのことや意思疎通等を、実用性をもって行える能力の制限=動かせる機能に見合った方法の工夫や、眼鏡、杖といった補助具の活用など、自分のことを自ら行えるよう手助けする「適応型アプローチ」。

 B社会的不利(handicap)〜@やAの結果作り出された社会生活(外出や交通機関の利用、住宅事情、仕事や生きがいなど)全般の不利。家族関係も含みます。=住居の改修や家族の役割の確立、様々なネットワークを駆使し住み良い環境を整える「環境改善型アプローチ」。

 これらの障害はそれぞれ密接に関係しており、包括的な対応をとることにより、「自立した生活」=体力の保持を最大限守る事が出来ます。

 また、もし病気になってしまったら、早い段階から運動をはじめる必要があります。たとえ安静が必要とされている場合においても、指の曲げ伸ばしや手足をさするなどの行為が、後の回復に良い結果をもたらします。(張秉俊、東京都機能訓練指導員、鍼灸師、東京都千代田区鍛冶町1−2−1 TEL 03・5295・2750)

[朝鮮新報 2003.8.29]