〈みんなの健康Q&A〉 廃用症候群(下)−注意と対応 |
Q:健康的な心身を維持するため必要な事は? A:適切な栄養、運動、睡眠が不可欠ですが、高齢者は体力の低下や感覚の鈍麻により、一般的に食欲が低下します。栄養状態の悪化は、日中の活動を低下させ傾眠作用を高め、夜間の不眠をもたらし、さらなる食欲不振へとつながります。また不安や尿意も安眠の妨げになります。 従って、口腔内を良好に保ち、規則正しい食事と生活を心がけ、体操や散歩などを日課づけ、就寝前の過剰な水分補給は避けるのが望ましい。 さらに家事を行う、趣味を持つ、人が集まる活動に参加する、食事はなるべく大勢で摂るなど、意欲的な生活を実践する事によって、健康的な心身は維持されます。 Q:麻痺などを持つ高齢者への対応は? A:高齢者は病気の発生によって、精神、身体の障害が顕著になり、薬の作用等で、より複雑になります。 家庭における機能訓練では、病院などで回復した能力、機能を維持する事が求められます。専門的なリハビリ以外にも、自分で行える運動は自分で、できない所は必要に応じて介助して、残った機能を生かしていく運動が必要です。介助を行う際、過度の運動は、骨折などの「誤用症状」を起こす恐れがあるので、苦痛のサインを見逃さないよう注意が必要です。 食事は、摂る前にあらかじめ口を動かす等、誤嚥予防に配慮が必要です。 高齢者は発病を機に、「自己の存在に対する痛み」を持つようになります。これは自己の消滅の危機から生じるもので、過去、現在、未来の時制に区分されます。過去の痛みは、生きてきた過程での後悔、未練等で、昔話をしたり、望郷の想いを語るなどによって表されます。現在の痛みは、体の状態や周囲の評価などに対する不安で、自己主張や拒否(いわゆる頑固)などによって表されます。 高齢者は、未来に対する不安を加えた、これら様々な痛み(不安)に対し、常に家族への理解を求めるようになります。その際、最も信頼すべき家族の批判、強制、無視等の行為によって、心の自立を失い、やがて深い孤独と絶望を感じるようになります。急な環境の変化や、愛する人やものとの離別も同様の結果をもたらします。 昨年「病苦により自殺」した高齢者の約6割が家族との同居世帯で、全世帯の同居率(50%)を上回りました。これは病気の軽重や生活環境に拘わらず、高齢者にとって家族の無理解がどれだけ心理的な影響を及ぼすか、表した結果といえます。 Q:寝たきりになった場合の対応は? A:廃用症候群の他、パーキンソン病等の進行性の難病や、外傷等でねたきりになっても、さらなる体力の低下や感染症を防ぐため、日中は極力ベットから離れて生活を送る必要がありますが、状態によっては圧迫骨折や呼吸困難等を起こす場合があり、状態を見ながら短時間の座位を繰り返し行う事が望ましい。 褥瘡予防にも注意が必要です。褥瘡は、栄養不良に体重や布団等による圧迫、不潔、衣服の縫い目やシワ等により、1〜2日の内に発生します。従って常に清潔を保ち、2時間に1回は体を引きずらない様注意しながら体位変換する必要があります。その際腰や肩甲骨、おしりやくるぶしなど、褥瘡のできやすい部分に、ローションを用いマッサージを行うと、予防に効果的です。 運動はあらかじめ蒸しタオルで暖めたり、マッサージを行い不安感を取り除いた上で行います。その際励ましながら行う必要がありますが「幼児言葉」は高齢者の自尊心を傷つけ、意欲を低下させるので、厳禁です。 在宅で、治療や生命維持に必要な医療管理(酸素、経管栄養、ネブライザー等)を受けてる場合でも、同様の対応が必要ですが、事前に医師等と協議の上、細心の注意を払って行う必要があります。 在日コリアンの公的介護の利用状況は、認知度の低さ等から大変低いと見られております。意識の面でも「自分の家族は自分で見る」との積極的介護論が、日本人の3倍に達し、食生活や言語、風習の違いから、第三者の介入を忌避する傾向があります。 高齢者は身体、精神的にも、また生活全般においても個人差が大きいのが特徴で、その最大の理解者は家族ですが、家族だけの介護だけでは、労力と期間の長さから、疲弊し破綻してしまう現実があります。従って介護保険やデイケアなど、様々な福祉制度の協力が、家族を中心に運営されてこそ、高齢者の寝たきりを予防し、尊厳と家族の安定を守る事が出来ます。(張秉俊、東京都機能訓練指導員、鍼灸師、東京都千代田区鍛冶町1−2−1 TEL 03・5295・2750) [朝鮮新報 2003.9.4] |