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「読みたい本がきっとある」−「アートン」郭充良代表に聞く

 「アートン」は91年、朝鮮の武道であるテコンドーのプロモーションをはじめることでその一歩を踏み出した会社。92年には「尹伊桑生誕75周年記念フェスティバル」の製作をはじめ各種コンサートの広報、宣伝広告、イベントなどを成功させた。そして97年にかねてより念願だった出版部門を創設。99年には映画「夜を賭けて」の製作、02年に上映を成功させるなどエンターテイメント性の高い活動の輪を広げている。

 とりわけ、出版部門では今年度「日本児童文学者協会新人賞」に輝いた「バイバイ。」(李慶子著)をはじめアフリカの深刻な飢餓の実態を写真と文で告発した「シエラレオネ」(文、写真=山本敏晴)、ボローニア国際児童図書展グラフィック大賞を受賞した「多毛留」から27年ぶりに米倉斉加年さんが描き下ろした絵本「トトとタロー」(文=かの)など話題作が目白押しである。好調な仕事ぶりについて郭充良代表に聞いた。

 「デジタルの時代と言われているが徹底的にアナグロにこだわりを持ちたい。活字には数千年の歴史があり、活字文化の凄さには戦慄を覚える。文体にはその人の思想、人柄すべてが滲み出る。人がどの言葉を選ぶかですでに思想性が現れていると思う」。郭さんは携帯電話やインターネットの時代だからこそ、あえて小出版社の出番があり、「今がチャンス」だととらえている。「メール一つで済ませるのではなく、手紙を書き、人に会い、徹底的に話し合い、丁寧な仕事をすれば、いい本が生まれる」という確信を持つ。

 「大手出版社は何百万冊もの漫画本を出したり、売れるものしか作らない。そこに挑戦するには、埋もれている素朴で豊かな人間性溢れる物語に着眼すべきだ」と持説を説く。その発想は遠い記憶の中にあった。

 「幼い日に母の膝の上で聞いた朝鮮の民話が何と豊かな世界に導いてくれたことか。今思い出してもドキドキ、ワクワクしてくる。あの驚きと感動を本にしたいという夢を抱いてきた」。

 郭さんは朝鮮と日本をリンクする豊かな民話の世界を再現すること、そして「ささやかな試みではあるが、その本を通じて隣人がかけがえのない大切な存在であることを知ってもらいたい」との強い願いから、来年からは、南朝鮮の童話シリーズを毎月1冊10回配本していくと言う。

 企業にあって、社長は決断を下ろすが、それは話し合いが前提にあると語る郭さん。心を砕くのは、社内の風通しの良さと徹底的なミーティング。

 「社員の大部分は日本人だが、北やアフリカへの食料支援を決める時も全員が積極的に賛成してくれた。また、企画会議の時は新人であれ、ベテランであれ、社長であれ同じ土俵の上で平等な話し合いが行われる。これはもの作り集団、出版文化の鉄則。上司と部下という上下関係だけでは、もし、会社が潰れた後には何も残らない。職責ではない人間対人間、友人対友人という関係こそを大切にしたいと思う」

 今の仕事の原点にあるのが、朝鮮商工新聞の6年間の記者時代だと郭さんは懐かしそうに振り返る。「この仕事を応援したり、助けてくれる人は、あの時代からの友人たちだ。人生のもっとも貴重な体験をさせてもらったと感謝している」。郭さんは仕事の原点は人と人との出会い、一人一人を大切にしていくことと繰り返し語った。「アートン」の好調ぶりの背景が、そこにある気がした。(粉)

[朝鮮新報 2003.9.8]