詩画集「グッバイ アメリカ」を読む |
朝はこれまでも 今も アメリカのイラク攻撃は世界を揺るがし、すべての人に戦争とテロの恐怖をもたらした。それは旧来の戦争とも異なる一層の滅亡の始まりだろう。 この度出版された、詩、趙南哲/画、黒田征太郎の詩画集「グッバイ アメリカ」はアメリカの暴力的本質を根底から的確にあばき、辛らつな風刺と皮肉に満ちている。解説で立松和平が〈世界が一つだなんてこと、あるはずないじゃないか。/自分たちの世界がその摂理だと思い上がるのは、滅びを約束された人たちである〉と書いているが、まさに滅びを約束されたとしか思えない現在の世界をひしひしと感じさせる。黒田征太郎の絵が戦争の血生臭さと非人間性をリアルに表し、詩画で迫力が数倍化している。 趙南哲は前の詩集「樹の部落」「あたたかい水」で詩人として高い技量を発揮したが、今回はさらに知的批評性が増し、単純な抗議ではなく、アメリカを様々な角度から分析し、なお詩に構成する手腕を示した。 本詩集の特徴をあげると、@有色人種の立場から見たこと。〈半分を黒や褐色や黄色が占め/残りは貧乏人のくすんだ白ばかり〉(アメリカ10)悲惨なことだが戦争に狩りだされるのは「黒や褐色や黄色」からなのだ。戦場で殺し合うのは有色人種で、しかけた一握りの白人は無傷で笑う。日本人も有色人種なのにアメリカが守ってくれると思っている。原爆を落とされたのに。痛烈なブッシュ批判で有名なマイケル・ムーア監督は『アホでマヌケなアメリカ白人』(柏書房)の中でこう述べる。〈俺は俺自身が怖くなることがよくある〉〈突然白人に取り囲まれたりしたら、気を付けた方がいい。何が起こっても不思議はないからな〉この省察は鋭い。「白人」を「日本人」に代えても通じる。昨今の有事立法成立、右派の台頭はまさに〈何が起こっても不思議はない〉事態になってしまった。A逆説表現が多く、アメリカの本音を明らかにする。〈この国は自由の国だ/好きな時に好きな所から先住民を追い出して広大な牧場にする自由〉(「アメリカ7」)弱者の立場からだけでなく、アメリカの支配者側からも描くのでより現実が分かる。B世界の恣意性を認識。〈たまたま死ぬ人びと〉〈気まぐれの命令ひとつで世界は動く〉(「アメリカ6」)冷戦構造の時はイデオロギーの対立という枠組があった。しかし、アメリカ一極集中の現在、戦争のきっかけは気まぐれや当面の利害で突然やってくる。物語は無く、錯綜する欲望があるだけだ。 また、本詩集の「アメリカ」を「日本」に置き換えても通じることが多い。敗戦の時、両手を挙げて降伏し「ハロー アメリカ」と言ってから半世紀以上たち、ディズニーランドに熱狂する日本人。〈ディズニーランドへはもう行ったかい〉(「アメリカ11」)。アジア人なのにアジアへの差別感はなくならない。滅亡を避けたいなら今こそ「グッバイ アメリカ」と叫ぶべきなのだが、言いなりになるだけ。この詩集は日本への告発でもある。 なお、イラク戦争に反対し日本の軍事化に警鐘を鳴らす313編の反戦詩を集めた「反戦アンデパンダン詩集」(創風社)を私は編集したが、趙南哲は「アメリカ3」を寄稿して下さった。この反戦詩運動はアメリカのインターネットを使った運動とも連帯し、詩篇を小泉首相に提出した。アメリカの反戦詩運動を荷っているのはベトナム戦争体験世代である。 アメリカにも今のアメリカに「グッバイ」と主張する詩人たちがいる。世界構造を変えるのは困難だが、真実を見抜く詩人たちの作品は生き延びる道を示してくれるのだ。(佐川亜紀、詩人) [朝鮮新報 2003.10.22] |