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朝鮮の食を科学する〈21〉−健康ブームで人気の荏胡麻

 エゴマの葉が人気の食べ物となっている。焼肉店でこれを生野菜で出してくれるところもあれば、しょうゆ漬けの「醤アチ」が、おかずとしてよく利用され、商品として朝鮮食材店に置かれているのが目立つ。

 古くから朝鮮の食生活に関わってきたこの野菜、健康ブームの盛り上がりの中で、見直す価値があるようだ。

東南アジア原産

 シソ科の植物で東南アジア(インド付近)原産の一年生植物である。朝鮮ではもちろん、日本でも各地で栽培、帰化植物として自生している。種実油は「エノ油」として、かつては大量生産され、唐傘、油紙に使われていた。

 春に芽を出し、夏の終わり頃に総状花序の白い小さな花をつける。全体としては、日本料理に使われる青ジソに似ているのは、同じ仲間だからである。ただ香気がまったく異なる。エゴマは、一種くせのある香りで、馴れないと、とっつきにくい。

 朝鮮では、古くからエゴマを栽培して、油脂植物として利用してきた。

 朝鮮語でトゥルケと呼ぶのは「トゥル」つまり「野」のゴマという意味で、野生の自生植物が多くあることから来ている。

 エゴマはチャムケの「眞胡麻」より自然環境に強く、低温、降雨にもよく育つ「野生植物」の特徴を持っている。

 現在、朝鮮で食用油のゴマはマゴマなどであって、エゴマではない。エゴマは畑に大量に栽培されるというよりも、庭の菜園や空き地を利用して植えられることが多い。

 朝鮮、日本、ともに昔はエゴマの種子を救荒食品、食用油、工芸油として活用してきた。やがて眞胡麻、菜種油などが普及することにより、食用油としては利用されず、工芸油として油紙づくりにのみに使われてきた。ところが、これもビニールの普及により、油紙の生産が不必要となり、日本ではエゴマの栽培植物としての需要はなくなった。

 朝鮮ではエゴマの油は、温突部屋の床の「チャンパン」に重宝に使われてきたし、なによりも、葉を食用とすることが生活に根づいていたので、その栽培は減少したが、途切れることなく今日も続いている。

 葉を生食することが多い。ご飯や焼肉を包む「サム」料理に、サンチュと同じく利用される。生食すれば、ビタミンA、C、B1、B2、ニコチン酸の供給源になる。あの特有のニオイは、ペリアケトンと呼ばれるが、馴れると食欲をそそる効果があり、夏の食欲の落ちる時には、役立つ菜である。

花、葉、種も生食

 韓国では、補身湯(狗肉スープ)の薬念に欠かせないものとなっている。

 しょうゆ漬けにした醤アチもご飯をくるんで食べたり、ビールのつまみにもなって、味を楽しむことができる。

 自家栽培では、6、7月ともなれば、毎日のごとく伸びてくるやわらかい葉を摘んで、利用できる便利な家庭野菜である。

 育ちきると花をつけるが、この花も料理の「つま」になる。青ジソの花がよく刺身料理などに添えられているが、エゴマの花もこれとまったく同じものなので使える。5〜6センチの長さにびっしりとついた白い小花とその下の未熟な種子をしごき取り、調味料に合わせると「薬念」としての価値を発揮する。

 花のあとには種子になり、これを集めるのには手がかかるが、食用に利用したい。

 種子の油には、不飽和脂肪酸が多く、マゴマや他の植物油に比べると乾性が強く、酸化しやすく、搾油したものを長く保存して食用にするのは適さない。時間をおかないで用いるとよい。

 朝鮮では、種子をすりつぶして、そのまま食べたり、スープに使ったりしている。

美容にも良い

 むかしから伝えられている効用として@女性が皮膚をなめらかにするのに、毎日少しずつ食べ続けるとよい。A種子をよく洗い、陰干ししたものを丸ごとよくかんで食べ続けると強壮作用がある。B急激な生理的老化や、精神的なショックによって、髪の毛が白くなった人は、エゴマの種子を食べると黒髪に戻ることがある。

 エゴマにも種類がいくつかあるが、在日の人で種子を持っている方は多い。いまから準備して、来年の春にはちょっとした空地なり、プランターでも十分に栽培することができる。

 むずかしくはない。種子を捲いて、水だけ切らさなければ育つ。挑戦してみてはいかがでしょうか。(鄭大聲、滋賀県立大学教授)

[朝鮮新報 2003.11.14]