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〈女性・仕事・作品〉 整体師・金必善さん

 「人間が好き。生きることにとことん執着して人生を過ごしたい」と語るのは、京都市在住の整体師金必善さん。153センチの小さな体に屈託のない笑顔が好印象の金さんは、長年地元の民族学級で講師を務めてきた。

 「今の仕事に就いたのは3年前のこと。人生、ぐずぐずせずにやる時はバサッとやらなきゃ」と潔い。

 資格を取ったのは9年前。

 「辺りを見渡すと、ここが痛い、あそこが痛いという人がたくさんいた。非常勤講師をしていて、経済的に苦しかったこともあるし、いずれ第一線を退いた時には自立しようとも考えていた。そうした事情と周囲の状況とがたまたま一致したのが整体師だったわけ」

 講師をするかたわら、書店に足を運び、学習講座のチラシに目を通した。金銭的にも時間的にも制限された状況の中で、時間とお金の許す限りせっせと講座に足を運んだ。日、祝、祭日も無駄にはしない。1年半をかけて、整体師養成講座を修了した。

 免許取得後は周囲の同胞たちの治療を行った。噂は広まり、50歳を節目に金さんは人生のターニングポイントを迎えることになる。

 「民族学級の講師を18歳の頃から32年間した。はじまりは午後夜間学校で。京都市内をはじめ舞鶴、口丹でも授業をした」

 子どもたちが塾に通いはじめるようになってから、午後夜間学校は次第に姿を消していった。その後は市内3カ所の学校を持ち回り、子どもたちを教えてきた。

 「民族学級の仕事は精一杯やってきたから悔いはない。情熱を注ぎ、熱く燃えたから未練はないし、懐かしいとも思わない。それに世代交替も考えな。長老がいつまでも居座っていると若手が育たない」

 「満足を知る者」は、次なるステージへと歩みを進めた。

 「整体は民間医療だから保険が利かない。お金のある人だけが何でもできる世のなかは何とも腹立たしい」

 金さんは、治療の価格を設定しているものの、患者の経済事情によっては「値引き」してしまうという。

 「この調子じゃあ生活できない。でも、出張費はもらわない、余計にくれるお金も受け取らない」

 ただただ「人の喜ぶ顔を見るとうれしいから働く」のだと言う。

 現在、患者の70〜80%は同胞だ。性別では女性が多い。「今まで100人以上は診てきたかな」。

 愛車の「ホンダレブル」にまたがって、北へ南へ東へ西へと市内一円をくまなくまわる。冬なら30分で手がかじかんでしまうのだとか。

 「人の体に触れる仕事だから、手が冷たいと駄目でしょ。だからいろんなことを試してみた。時には電流入りの手袋をはめたことも」と茶目っ気たっぷりに笑う。

 右京区では、商工会の女の子たちを対象に「ストレッチ」教室を開いたこともある。不健康な若者が増えるなか、金さんの目は光を放つ。「一目見たら健康状態がすぐわかる。女の子たちに生理不順やろ? と聞くと、大半の子はそうだと答える」。

 金さんは「自分を自遊人やと思ってる。今の仕事は自遊業。形は変わっても、人生中身は変わらない。現実を見つめながら、日本の社会で朝鮮人としてどう生きていくか考えている。できることなら幸せに。後代が未来を開く礎になれればもっと良い」と考える。

 「まだまだやりたいことはいっぱいある」

 登山、油絵、旅行、ピアノ…と趣味も多彩。

 「そうそう、私、結婚もしなくちゃね」とはにかんだように笑う。束縛を嫌うと言いながらも、まだまだ結婚の「夢」は捨てていないようだった。(金潤順記者)

[朝鮮新報 2003.12.15]