2003年出版の本を読む |
今年も暮れようとしている。荒れ狂う戦争と暴力の時代。米国が小型核爆弾並の最新兵器を投入したイラク侵略戦争の後、それに盲従する日本ではおびただしい数のブッシュ賛美の唾棄すべき本の出版ラッシュが続いた。「知性も理性」も地に墜ちて、御用知識人、学者、ジャーナリストらが醜態をさらけ出す。そんな中にあって、「私はブッシュの敵である」と目の覚めるような宣言をして、気を吐く作家の辺見庸氏。 9.11テロ、アフガン報復戦争、イラク侵略戦争、朝鮮半島をめぐる危機。この世の不条理に根源的な「NO」を突きつけ、米国の暴力にどう抵抗するか。辺見氏は一貫して、そのことにこだわり続け、そして、爆弾の下にいるイラクやアフガンの民衆の立場に立って、言葉を発し続けている。そこには「この世界の悲惨の数々を五感で受け止め、自らの身体の奥深くに記憶しつづけてきたジャーナリスト」(姜尚中東大教授)としての姿がある。その暗い闇を照らすのは今年、緊急出版された「単独発言」(角川文庫)と、「いま、抗暴のときに」(毎日新聞社)。「帝国の暴力」との闘いを支えるのは、揺るぎない抵抗と熾烈な抗暴の精神なのだ。 歴史を軽んじ、現象に縛られがちの軽薄な世界。強い者に迎合し、弱く貧しい者を見下すメディア。 とりわけ拉致問題以降の日本メディアの底なしの堕落、根腐れの醜態をどう見るか。この現象は新聞や雑誌、テレビや映画、文学や哲学にいたるまで、すべてを覆い尽くす。 ブッシュの戦争を賛美することを恥じない底知れぬ倒錯と狂気じみた妄想。これが、人々のまっとうな思考力を鈍らせ、奪っていく。ここに今年徹底的なメスを入れたのが、姜尚中東大教授だ。「北朝鮮」を害虫のように扱うメディアの巨大な虚偽と空疎な言葉を徹底的に解剖し、むき出させる。 「反ナショナリズム」(教育史料出版会)、「日朝関係の克服」(集英社新書)は、日本の全体主義、戦争勢力に身体まるごとさらして闘いを挑む迫力ある本。読んでない人は、ぜひ一読を。 今年は関東大震災から80年。その節目の年に出版されたのが、山田昭次立教大名誉教授の「関東大震災時の朝鮮人虐殺」(創史社)。山田氏はあの忌まわしい虐殺から今日までの虚しい歳月を「恥の上塗り」80年と表現する。それは「今日まで日本政府から朝鮮人虐殺事件の調査結果の発表も、謝罪もされなかった」からだと。その一方、政府だけの問題ではない、直接、手を下した民衆の虐殺責任をも併せて追及していく。そして、山田氏は拉致問題で沸騰する日本の世論をこう評する。 「『恥の上塗り』八〇年をそのままにして顧みない日本人の朝鮮民主主義人民共和国批判は、南北朝鮮や在日の民衆の共感を得ることはできない」と。 旧日本軍の性奴隷制を裁いた「女性国際戦犯法廷」(「女性法廷」)の提唱者でジャーナリストの松井やよりさんが亡くなったのは、昨年暮れ。 松井さんが死の床で渾身の力をふり絞って書いたのが「愛と怒り 闘う勇気」(岩波書店)。 松井さんは新聞記者時代に、アジア各国を30年間取材して、急激な経済成長の裏で、貧困や買春、凄まじい人権侵害と環境破壊の犠牲になった人々と出会い、開発独裁に伴う軍事化の暴力にさらされながら、「痛みを力」にして闘うパワフルな女性たちの姿を伝えた。 さらに松井さんは国際的な女性連帯行動の中心として、まさに八面六臂の活躍を続け、困難な壁を乗り越えて2000年12月、ついに女性法廷の開催を実現させたのだった。そして、この法廷は日本の最大のタブーとなっている昭和天皇の戦争責任を裁いた。そんな松井さんが残した最後のメッセージは「愛せ、怒れ、勇気をもって闘え」であった。とりわけ、女性たちの心をとらえて離さぬ秀作。 蔓延するナショナリズムの気分。日本の政界を支配するのは幼稚なタカ派とでも言おうか、勇ましい面々である。そこでも特大の迷走ぶりを発揮しているのが、石原慎太郎都知事。気鋭のジャーナリスト斎藤貴男氏が著したのは「空疎な小皇帝―石原慎太郎という問題」。(岩波書店)。 石原都知事は欧州の極右をも上回る好戦屋。米誌ニューズウィーク(韓国版02年6月5日号)で「私が総理だったら、北朝鮮と戦争してでも(引用者注・拉致された人々を)取り戻す」と発言した。日本の中で戦争や核や徴兵制が公然と語られるようになった過程で、斎藤氏は「石原慎太郎というキャラクターがある重要な役回りを演じているか、または演じさせられているように見える」と分析している。誰も彼もが軽薄に戦争を口にする状況の突破口を開いた石原都知事。まさに、「メディアを通じて、北朝鮮への嫌悪、憎悪を煽りたて、戦争してもよい、すべきだとの空気を充満させた」張本人だと見る。 この雰囲気は自衛隊のイラク派遣と呼応して、ますます膨らんでいくだろう。本書は、批判の牙を抜かれた大手紙などが積極的に戦争に加担していく流れに抗し、気骨溢れる内容となっている。(朴日粉記者) [朝鮮新報 2003.12.22] |