top_rogo.gif (16396 bytes)

〈コリアン学生学術フォーラム2004〉 統一コリア賞受賞論文−民族学校周辺の交通安全措置に関する実態調査

 「コリアン学生学術フォーラム2004」(4〜5日、東京都江東区の東京スポーツセンター文化館BunB)で「統一コリア賞」に輝いた論文「民族学校周辺の交通安全措置に関する実態調査〜日本学校との比較研究〜」(「人権と生活」分科)を紹介する。

1、背景及び研究目的

 地域にある日本の小学校の校門に至るような付近(スクールゾーン)の道路には通学路としてさまざまな安全対策が施されている。歩車道分離、ガードレール、カラー舗装道路、登校時間の通行規制、ドライバーに注意を促す道路標示、反射鏡、横断歩道、信号の設置などである。しかし民族学校(ここでは朝鮮学校及び他の外国人学校を含む)へはこのような措置があまり取られていないのが現状である。ここでも一条校ではないからという「理由」が立ちはだかっているが、今回直接訪れた神戸市の民族学校では改善を求める運動により交通安全措置が施され、同じように何らかの措置を実現した学校がいくつかある。

 このような実例から、問題の背景にあるスクールゾーンの歴史及び定義を調べるとともに、今後の民族学校の交通安全対策措置を実現するためにどのような働きかけが必要で、また交通安全措置後どのように維持、発展していくべきかを考察し、本論文が民族学校周辺の交通安全を実現するうえで、大きな参考になることを目的としている。また本論文を通じ、現在の民族学校周辺の交通安全措置の実態を多くの方に理解してもらい、各地方において民族学校周辺の交通安全措置実現運動の展開に貢献できればと思っている。

2、日本における学校周辺道路の交通安全対策の歴史

 2−[1] 国、自治体の交通安全対策推進体制

 昭和45年頃、日本では交通事故による死者が急激に増加していた。それに伴い政府は昭和45年に交通安全対策基本法を施行し、同法に基づき交通安全対策推進体制を築いた。

 (交通安全対策基本法は、交通の安全に関し、国及び地方公共団体、車両、船舶及び航空機の使用者、車両の運転者、船員及び航空機乗組員等の責務を明らかにするとともに、国及び地方公共団体を通じて必要な体制を確立し、並びに交通安全計画の策定その他国及び地方公共団体の施策の基本を定めることにより、交通安全対策の総合的かつ計画的な推進を図り、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とした法律である)

 国、治体の交通安全対策推進体制の定義は以下の通りである。

 2−[1]−@  国の交通安全推進体制

(1)中央交通安全対策会議 

 昭和45年に交通安全対策基本法が施行されたことに伴い、同法に基づき、総理府に中央交通安全対策会議が設置された(平成13年、中央省庁等改革に伴い内閣府に移管)。同会議は、内閣総理大臣を会長とし、内閣官房長官、指定行政機関の長及び特命担当大臣の内から内閣総理大臣が任命する者を委員として構成され、交通安全基本計画の作成及びその実施の推進その他交通安全に関する総合的な施策で重要なものの企画に関する審議及びその実施の推進を行っている。

(2)交通対策本部 

 政府は、昭和30年、交通安全対策の総合性の確保を図るため、内閣に交通事故防止対策本部(昭30閣議決定)を設置したが、その後の陸上交通事故の増加等の状況にかんがみ、35年に同本部を発展的に解消し、新たに総理府に交通対策本部(59年、総務庁発足に伴い同庁に移管)を設けた。同本部は、平成13年の中央省庁等改革を機に、中央交通安全対策会議の機動性を高め、交通安全に関する総合的な施策の推進機能を強化するため、同会議の下に設けられる機関として位置付けられることとなった。交通対策本部は、交通安全基本計画に定める施策を機動的に推進し、同時に交通の安全に関する総合的な施策で重要なものを機動的に企画し及びその推進を図っている。

 (3)交通安全に関する施策及び事務の総合調整等 

 政府は、昭和40年、各行政機関の陸上交通安全に関する施策及び事務の総合調整の推進を図るため、総理府に陸上交通安全調査室を設置したが、昭和45年の交通安全対策基本法の施行に伴い、同調査室を交通安全対策室(59年、総務庁発足に伴い同庁に移管)に改組した。平成13年の中央省庁等改革に伴い、総務庁交通安全対策室の事務は、一部を除き内閣府政策統括官(総合企画調整担当)に移管された。同政策統括官は、交通安全の確保に関し行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務、交通安全基本計画の作成及び推進に関する事務等をつかさどっている。

 2−[1]−A 地方公共団体における交通安全推進体制

 (1)都道府県交通安全対策会議等 

 交通安全対策基本法に基づき、都道府県には都道府県交通安全対策会議が、市町村には市町村交通安全対策会議(任意設置)が設置されている。これらの交通安全対策会議は、都道府県及び市町村の交通安全計画の作成及びその実施の推進、陸上交通の安全に関する総合的施策の企画の審議及びその実施の推進並びに関係行政機関の連絡調整を図っている。

 (2)都道府県交通対策協議会等 

 国の交通対策本部に対応したものとして、都道府県に都道府県交通対策協議会等が設置されている。

 (3)交通安全に関する施策及び事務の総合調整等 

 地方公共団体は、交通対策課や交通安全対策室等といった部局を設置し、当該地方公共団体における交通安全施策の総合的な推進及び交通安全に関する事務の調整を行っている。

 以上のように国・自治体の交通安全対策推進体制が成り立っており、中央交通安全対策会議で決定された交通安全基本計画が全国で実施されていくのである。

 2−[2] スクールゾーン設定の経緯

 スクールゾーン設定がなされる前の昭和45年頃、交通事故による幼児の多数の死に伴い、幼児の交通安全対策について中央交通安全対策会議専門委員から具体的な提案が昭和47年3月に出された。幼児の交通事故を防止するために必要な「環境の整備」「交通安全教育の充実」「監督行政機関の連絡強調の確保」「調査研究の推進」について詳しく提案がなされたのである。スクールゾーンの定義は、「環境の整備」の一つの要素である「通園通学環境の整備」についての部分に記述がなされている。

 記述では「特にこどもの交通安全を確保する必要のある地域(いわゆるスクールゾーン)を定め、スクールゾーン内では歩行者用道路の設定、速度制限など交通規制の強化、交通安全施設の重点的整備等を積極的におこなうこと」とされ、本提案は昭和47年4月5日に決定され、決定とともに昭和47年の春と秋の全国交通安全運動を契機として、全国的にスクールゾーンの設定が推進された。スクールゾーンの範囲であるが保育所、幼稚園、小学校などの施設を中心とする半径おおむね500メートル以内を範囲とし、この地域を、交通安全の整備、交通規制、交通指導取締り、安全広報などのあらゆる交通安全施策を総合的、集中的に実施すべき地域として指定し、交通規制の面でも、スクールゾーン内では、歩行者用道路の設定、路側帯の設置などのほか、速度制限、駐車禁止、一方通行、一時停止などを組み合わせた交通規制を大幅に実施してきた。スクールゾーンは一斉に全国に広がり現在の状態に至っている。

 2−[3] 交通安全対策基本法及びスクールゾーンの定義から見る民族学校周辺の交通安全対策

 交通安全対策基本法第4条によると「地方公共団体は、住民の生命、身体及び財産を保護するため、その区域における交通安全に関し、国の施策に準じて施策を講ずるとともに、当該区域の実情に応じた施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する」となっており、地方公共団体は住民の生命、身体を守る義務がある。またスクールゾーンの定義における学校の規定に一条校と民族学校(各種学校)の区別はないことから、地方公共団体は当該地域すなわち民族学校周辺にあった施策を策定し、実施しなければならないと言える。

3、交通安全措置に至るうえでの民族学校の問題点

 3−[1] 校区及び通学路の指定

 上記でも示した通り、民族学校にも当然交通安全対策がなされるべきである。ではなぜ民族学校には措置がなされていなのかというと、具体的な通学路及び校区が指定されていないためである。校区というのは公立小学校に対する通学区域である。校区は市の教育委員会で定められているのであるが、校区が決まると学校までの通学路も自然と決まる。そこでこの通学路を中心に整備がなされていくのであるが、民族学校は民族教育を受けるため、近場の生徒はもとより遠方からも生徒が通学しているので校区は定められていない。交通形態もさまざまで、徒歩の学生もいれば、自転車、スクールバス、電車を利用して通学する学生もいるので通学路を具体的に指定できていない現状が民族学校にはある。では民族学校と同じように遠方から学生が通う私立学校や国立学校などはどうであるのかというと、私立学校や国立学校などの多くが通学までの指定の交通機関が決まっているケースが多く、学校に至るまでの通学路が設定されているため、通学路が整備されていることから日本学校すべてが整備されているように思えるのである。しかしすべての日本学校の整備がなされているのかというとそうではなく、建設局の方から直接伺った話であるが、一部の国立や私立学校でも通学路をきちんと指定していない学校では整備がなされていないという現状も存在する。

 以上を踏まえると、学校の交通安全措置を実現するうえで通学路指定と校区が問題となってくる。

 3−[1] スクールゾーン実施までの経緯から見る地域との関わり方

 スクールゾーン実施に至るまでの経緯は、まず学校、地域住民、区役所、学校父兄及び市の教育委員会が通学路及びスクールゾーンの範囲、交通安全措置を強化したい箇所などを議論し、次に警察及び建設局との具体的な方法について議論がなされたあと合意がなされればスクールゾーン実施に至る。

 このように日本の学校ではスクールゾーン設置の過程で地域に密着した交通安全対策がなされ、こういった集まりのもと実施されているのに対し、民族学校は通学区域が定められていないことから日本学校と比較した場合に地域に密着した学校ではなく、地域と交通安全措置について議論できなかった点も問題であり、またさまざまな差別から民族教育を維持していくことに精一杯であった時代背景が原因とも言える。

4、民族学校の現状及び交通安全措置が実施された学校(地域)から学ぶもの

 4−[1] 交通安全措置が不十分な民族学校

 論文作成にあたって近畿圏を中心に外国人学校を含めた多くの朝鮮学校に足を運び、多くのことがわかった。現在の民族学校の周辺について以下の四つのケースに分類することができる。(四つのケースについて資料で写真、地図を用いて詳しく紹介する)

 (1)近隣に他の日本学校があるため、整備されているケース
 (2)交通量は少ないため、具体的な取り組みがなされていないケース
 (3)神戸市や埼玉のように取り組みによって改善されたケース
 (4)交通量が多いが未だに当局から置き去りにされているケース

 (1)のケースは朝鮮学校のために設置されたものではないが、近隣に日本学校があるため、間接的に整備されているケースである。大阪朝鮮第四初級学校や西神戸朝鮮初級学校等がこれに当てはまる。大阪朝鮮第四初級学校や西神戸朝鮮初級学校の近辺には日本の小学校があり、間接的ではあるがスクールゾーンが整備されている。

 次に(2)のケースは交通量が少なく、さほど危険な地域でないため交通安全対策措置がなされていない学校である。京都朝鮮第三初級学校がこれに当てはまる。学校までが大通りから外れた細い一本道で、具体的な取り組みがなされていない。

 次に(3)のケースは実際に学校周辺の交通量が多いため、交通安全措置をめぐる運動により交通安全対策措置がなされた学校である。神戸市にある神戸朝鮮初中級学校や神戸中華同文学校がこれに当てはまる。

 最後に(4)のケースは交通量が多いが依然取り組みがなされておらず危険が伴う学校である。京都朝鮮第一初級学校がこれにあてはまる。(4)のケースに当てはまる学校については一刻も早い交通安全対策措置が必要である。

 以上のように多くの民族学校で交通安全対策措置がなされていない現状がある。しかし(3)のように安全対策措置を実現できた学校も一部ではあるが存在する。

 4−[2] 交通安全措置を実現した経緯から学ぶもの

 交通安全措置を実現した例はいくつかあるが、ここでは一部分を改善した伊丹朝鮮初級学校、阪神朝鮮初級学校、埼玉朝鮮初中級学校の例と一条校とまったく変わりない交通安全措置を実現した神戸市の民族学校の例を取り上げて、この例から学べる点について考察する。

 4−[2]−@ 伊丹朝鮮初級学校、阪神朝鮮初級学校、埼玉朝鮮初中級学校

 伊丹朝鮮初級学校の例であるが、同学校では8年ほど前に、校門前の道路が狭いうえに近くの河川敷公園利用客の往来が激しいため市に交通安全措置を要請したが、一条校ではないとの理由で断られた。再度要請した結果、スクールゾーン指定はならなかったが、安全鏡(黄色の支柱)取り付けに至った。

 阪神朝鮮初級学校では4年前(現在は統合され校舎はない)に校門前の車往来が激しいため要請したが、結果は伊丹と同じく一条校ではないという理由から受け入れられなかったが町内会の協力的な地域住民が、事情を聞き、市に働きかけてくれた結果、ここでも安全鏡(白色の支柱)を取り付けることができた。

 (安全鏡であるが、黄色の支柱は、警察で認め取り付けた物、白色は警察が認めたのでは無く、個人が購入し取り付けた場合である。阪神朝鮮初級学校は白色で、市がやむをえず別予算で取り付けたものである)

 埼玉朝鮮初中級学校の例であるが、学校の前の道路には以前より校門の右前方当たりに「危ない」という路面表示があったのだが、ペイントが剥げて「危ない」という字すら読み難いほどになっていた。「危ない」と記されているように校門前付近は道路が少し蛇行しており、見晴らしが悪く、非常に危険な状態であった。安全ミラーも設置されているが、全体として心細く、ましてや路面表示は上記のような状態であったので、これに関して、学校は市に、塗り直しを要請したこともあるのだが、一条校ではないという理由で断られたそうだ。

 そこで在日朝鮮人人権協会の金東鶴氏が直接かけ合ってみようと、市に問い合わせ、市から紹介された大宮区の生活課に連絡したところ、早速、生活課の担当者が明くる日に現場調査を行い、その日の内に「学童注意」という路面表示を校門右前方、さらには左前方にも新たに付けるという承諾を得て現在設置されるという経緯に至った。

 このように伊丹朝鮮初級学校や阪神朝鮮初級学校では一条校ではないという理由から、一度断られ、再度の要求により措置がなされたものの、十分な措置がなされないという結果であった。一方埼玉朝鮮初中級学校では「学童注意」という路面表示をさせるという大きな成果があった。この三校の例から学ぶ点はやはり、一条校ではないとの理由で断られたのであれば、その根拠となる法令や条例また要綱といったものがあるのかを問いただす必要があったのではないかと思える。多くの民族学校では、一条校でないからという理由にただ足を止めがちである。阪神朝鮮初級学校や埼玉朝鮮初中級学校では学校内の人間でなく、外部の関係者が働きかけることによって交通安全措置を可能にした点からもわかる通り、学校関係者に対しては一条校でないという理由をむやみに使用し、納得させ、交通安全措置を行わない役所の態度がわかる。こういった点は交通安全措置に限らず、多くの差別を訴えるうえで教訓としなければならない点である。またこういった交通安全対策措置を実現するうえで学校関係者の働きかけも必要であるが地域住民に理解してもらい、地域住民の働きがけが大きな力となることがわかる。

 4−[2]−A 神戸朝鮮初中級学校並び兵庫県下の外国人学校

 兵庫県下の外国人学校の一部は運動によって他の日本学校と変わらない交通安全措置を実現した例である。なぜそういったことが可能となったのか。他の都道府県との差異並びに運動の経緯を紹介するとともに、この運動から学べる点について考察する。

 兵庫県では1995年の阪神大震災を契機に県下の19の外国人学校が、震災からの復興とその維持、発展のために互いに協力し合っていくことを申し合わせて兵庫県外国人学校協議会を設置した。外国人教育を守り発展させていくために県規模での当事者による協議機関の設置は日本全国でも初の試みであった。こういった協議体とともに交通安全措置に関する運動において「朝鮮学校を支えるおんなたちの会」という日本人の方で結成された団体や民族学校の母親達による「オモニ会」が強い力となった。論文作成にあたって「朝鮮学校を支えるおんなたちの会」会長の山村ちずえ氏と直接お会いすることで当時の状況並びに運動の経緯を聞くことができた。震災直後の神戸では学校が倒壊し、厳しい現状が続いていた。この頃神戸市の民族学校においても他の民族学校と同じく交通安全措置がなされていなかった。そして「なぜ朝鮮学校には交通安全措置がなされていないのか」というあるオモニの発言から、この問題を解決するため「朝鮮学校を支えるおんなたちの会」と「オモニ会」が中心となり運動が始まった。各民族学校周辺の交通状況を調査し、また地域住民の理解並びに協力を得るため、地域住民と話し合いを持ち、地域住民の協力を得て、学校を含めた地域の意思を統一し、兵庫県外国人学校協議会、また地域住民、市議会議員を運動に巻き込み、市に訴えかけ交通安全措置を実施できたのである。しかし当時の承諾では神戸市にあるカナディアン・アカデミー及びノルウェー学校周辺に「文」という電柱に巻く標識を取り付ける予定であったが、現在もそういった措置がなされていないという面も実際に現場にいき見ることができた。

 この運動から学べる大きな点は外国人学校が協議体により単一学校ではできない大きな力を得ることができた事である。また外国人学校関係者のみではこういった処遇改善はなされなかったと思える。「朝鮮学校を支えるおんなたちの会」の日本の方々や地域住民の理解があったからこそ、交通安全措置を可能にしたと思える。特に現場にいき思ったが神戸朝鮮初中級学校周辺は交通量が多く、朝鮮学校の学生はもとより地域住民にとっても危険な地域であったに違いない。地域の特性を把握し、その地域に見合った交通安全対策措置を考え地域住民の理解を得た結果が交通安全措置を実現するうえで大きな要因であると思える。またカナディアン・アカデミーやノルウェー学校ではいまだに承諾した交通安全措置がなされていない点から、各学校が自らの学校が整備されて満足するのではなく連絡を取り合い承諾内容が満たされるまで粘り強く訴える必要があったのではないかと思える。

5、民族学校周辺の交通安全に向けての提言

 民族学校周辺の交通安全措置を実現するには二つの方法が考えられる。まずは3−[2]節で紹介した一条校と同じスクールゾーンを設置する方法、そしてもう一つはさまざまな現状及び運動の例から得られた考えであるが、スクールゾーンというような地域を設けるのではなく、特に危険地域を指定しピンポイントで交通安全措置を実現する方法である。スクールゾーンと違って範囲が広くなく、ピンポイントで交通安全措置を実現するので、地域住民や市役所、区役所並びに警察、建設局との議論がスクールゾーンと比較した場合に、断然スムーズになる。多くの民族学校においてスクールゾーンの設置を実現するには、時間並びに多くの労力が必要であると思える。そこでピンポイントで危険地域を明確にし、訴えかける方法は効果的である。上記で紹介した神戸朝鮮初中級学校や埼玉朝鮮初中級学校が良い例である。またこの案について大阪市建設局の方に聞いたところ、実現するうえで最も可能性がある案であるとの答えを得ることができた。

 民族学校周辺の交通安全措置を実現するうえで重要となる点は、第一に各学校の周辺の交通状況を詳しく理解することである。どういった危険がありどう改善すべきかを具体化する必要がある。また各都道府県、市町村によって交通規制に配置するメニューは異なっており、それに合わせた改善を要望する必要がある。

 第二に自宅や駅などから徒歩で通学する学生がいるのであれば通学路を指定するべきである。

 第三に地域住民の理解が重要である。地域住民の理解がなければ、建設局や警察も実施には至れない。神戸朝鮮初中級学校のように地域の人間にとっても脅威となる点を指摘し、地域の住民と理解を深めるとともに地域に密着した学校にすべきである。

 第四に運動を展開するにあたって学校関係者だけでなく市議会議員や日本の方々と連携を取り合い訴えることができれば民族学校関係者だけでは解決できなかった問題も解決に至ることが今回の兵庫県の例で証明済みであり、今後形はどうであれ多くの日本人の方の理解を深めるために努力を続けなければならない。

 第五に何らかの整備をするとの承諾を得たのであれば、しっかり対応を見届け、対応がなされていないのであれば再度訴えかける必要がある。

 次に交通安全措置実施後、重要となる点であるが、第一に交通安全措置が実施されたのであれば、学校関係者及び、地域住民は設置された交通標識を守るとともに、事故が起こらないよう交通安全教育を厳しく行うべきである。事故の原因の一つに児童の交通安全に対する理解が十分にないケースが多い。交通安全教育をしっかりすることは事故防止に大きくつながる。また地域住民の他に交通標識を守らない者に関しては警察などに積極的に訴えかける必要がある。そういった積み重ねが児童の安全につながる。

 第二に自らの学校周辺の交通安全措置がなされて満足するのではなく、他の地域、地方と連絡を取り合い、全国的に運動を展開し交通安全措置を勝ち取るべきである。またこの過程において兵庫県のように県下の外国人学校が協力し運動をおこすことができれば交通安全措置問題に限らず、今後他の処遇改善に対する問題を解決する際にも大きな力となるに違いない。

6、おわりに

 論文作成にあたって多くの方と出会った。兵庫県で運動を起こされた方や、大阪市建設局の方など、外国人学校を理解し協力してくださる日本人は多くいると実際に感じることができた。また多くの現場にいき一刻も早くこの問題を解決し、民族学校に通う子供たちに安全を与えたいと強く思った。

 国立大学受験資格や助成金などの大きな問題も重要であるが、大きな問題に目が行きがちで、こういった交通安全措置など目に見えなかった問題が民族学校と日本学校の間には多く存在するのではないかと思う。隠れた問題を取り上げ解決していくことは民族学校の維持、発展に大きくつながると思う。

 本論文を契機に全国の留学同が各地方において民族学校の交通安全措置を勝ち取る運動の軸となり積極的に参加し、交通安全措置を勝ち取ることを願うとともに、本論文が交通安全措置を勝ち取る運動において参考になれば幸いである。

【論文執筆者】

 金孝京(同志社大学工学部4回生)
 白雪姫(京都産業大学法学部3回生)
 河昌吾(佛教大学社会学部2回生)

[朝鮮新報 2004.12.11]