国連子どもの権利条約委員会に参加して |
世界の人に伝えたい 昨年11月、西日本オモニ中央大会でのことだった。 私は総連中央女性局副局長の言葉に胸が熱くなる思いがした。 「来年1月末にスイスのジュネーブで開かれる国連子どもの権利条約審議委員会に、オモニたちの代表団を送りましょう。日本で暮らす在日同胞への民族差別や社会的差別の現実、とくにウリハッキョに通っている子どもたちへの差別や嫌がらせの実態を世界の人たちに直接訴えに行きましょう。オモニたちみんなで力を合わせて、かわいい子どもたちのためにがんばりましょう」
会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響いた。もちろん私も心の底から大きな拍手を送った。 それから1カ月が過ぎた頃だった。私がその代表の1人に選ばれたのだ。 女性同盟兵庫県本部委員長からの知らせに、最初は自分の耳を疑った。 まるで身体が宙に浮いているかのようだった。これまで家事と子育てにどっぷり浸かった毎日を送っていた私がまさか国際会議に参加できるなんて夢のようだった。 同時に私が留守にする10日間のことを考えると、心配と不安がどんどんふくらんだ。 そんな私に、「国連の国際会議に参加できるなんて誰にでもあるチャンスじゃないよ。すばらしい事じゃないか、自分の目で世界を見ておいで。家の事は何も心配いらないから」と、主人が背中を力強く押してくれた。幼い2人の子どもたちも、「がんばって留守番するから気をつけて行ってきて」と応援の言葉をかけてくれた。家族と周りの人たちの温かい励ましと協力に支えられながら、ジュネーブに行く決心をした。 それまで子どもの権利条約がどんなものかはよく知らなかった。女性同盟中央本部から届いた資料を何度も繰り返し読みながら、必死の思いで勉強した。 法律家でもなく政治家でもない私だったが、オモニたちの代表としてウリハッキョで学んでいる子どもや保護者たちの悲痛な叫び、民族教育への熱い思いを世界の人たちに伝えたいという、ただその一心だった。 誠意のない日本政府 出発の前日、福島、東京、神奈川、三重、兵庫、岡山、山口から8人のオモニが成田に集まった。互いに初対面ではあったが、不思議とそんな気はしなかった。 代表団はオモニたちに加え人権協会から総務担当、撮影スタッフの計10人で構成された。 飛行機を乗り継ぎ14時間、日本との時差は8時間もあり疲れてはいたが、誰一人そんな様子はみせなかった。オモニたちの心は熱い思いでいっぱいだったのだ。 ジュネーブ国際空港に到着した私たちを朝鮮の国連代表部の方が出迎え、宿泊先まで案内してくれた。私たちがスイスに滞在している間、何一つ不便のないよう気を使ってくれた。 疲れた体を癒す間もなく、翌朝8時には会議場である国連高等弁務官事務所へと向かった。チマ・チョゴリを着て会議室に入るオモニたちの姿は、日本代表団に威圧感を与えたようだったが、差別の当事者である私たちを目の前にしても、日本政府の報告は奇弁と誠意のないその場しのぎの答弁に終始した。 それを直接目の当たりにした私たちはいら立ちと憤りを抑えることが出来なかったが、逆にそれを大きな活力に変えた。 会議場内にいる世界各地から集まってきた人たちに、日本政府の民族教育に対する差別政策の実態とウリハッキョを守るために日本各地で「オモニ会」が行っている活動を紹介するチラシ(朝鮮語、日本語、英語)をつたない英語で声をかけながら手渡し、説明なども変えながら理解と協力を求めた。 私たちの熱い思いが込められたメッセージと活動が人々の心に響いたのか、今回の日本政府に対する勧告では外国人やマイノリティーと関連する多くの内容を勝ち取ることができた。 助ける用意できている オモニ代表団がジュネーブの国際会議に赴き、大きな成果を得たことはとても意義が深いことではあるが、これは出発点に過ぎない。 子どもの権利条約と勧告の研究をさらに深め、日本政府との交渉の手段として最大限に活用しなければ何の価値もない。 「委員会はいつでも君たちをサポートし、助ける用意はできているよ」 子どもの権利条約委員会議長の言葉は私に希望と可能性、そして勇気を与えてくれた。 私たちは民族教育の当然の権利をもっと強く主張し、権利獲得と拡大のためにこれまで以上に力を注ぐことが重要だということを痛感した。 これを機会に、まずはオモニたちの間で子どもの権利条約と勧告の学習を深め、次に民族教育を理解し支持してくれる日本の人たちとも学習会や交流会を重ねて、さらに輪を広げていきたい。 国際都市ジュネーブで見て聞いて身を持って感じた事を、1人でも多くの人に伝えていきたい。 そしてこれからも熱い思いを胸に、私たちの未来である子どもたちのために、民族教育のために精一杯力を尽くして行きたいと思っている。 金さんは1月28〜30日、スイス・ジュネーブで開かれた国連子どもの権利条約委員会に女性同盟オモニ代表団の一員として参加。各国NGOや報道関係者らに日本における民族教育差別の実態を訴えた。(金英淑) [朝鮮新報 2004.5.24] |