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〈月間平壌レポート〉 一貫する対日姿勢、ある外交官との対話

世論のギャップ

 平壌で取材する記者たちは、国内外の世論動向に常に関心を払う。平壌が発した「シロ」のメッセージが、東京やワシントンでは「クロ」と伝えられる場合が少なくないからだ。マスコミの報道によって相反する世論が形成されてしまう。各国の利害関係が対立する朝鮮半島情勢については、それが端的に表れる。

 2月末、2回目の6者会談は具体的な成果を上げられずに終わったが、米国は「対話継続」の意義をことさら強調した。日本の評価も肯定的なもので、今後「拉致問題」の協議などで進展があるのでは、との希望的観測も生まれた。

 しかし、次回会談の開催について合意がなされたということだけで、よしとする世論は平壌には存在しない。平壌市民は、今回の会談で米国の「本音」が露呈したと見ている。11月に大統領選挙を控えたブッシュ政権が、「時間稼ぎ」のために6者会談を利用しようとしているとの見解が主流である。

 核問題の平和的解決が先送りされた点についても、国内外の世論にはギャップがある。北南問題を担当する平壌の関係者は、「米国は対話の流れを逆転させようとしている」と指摘した。彼は南朝鮮における「大統領弾劾」の動きを「根拠」としてあげた。「大統領弾劾」は、南朝鮮が核問題や対北政策で民族自主の路線に向かうことを遮断するためのもので、「米国の意図」を反映したものであるという。

 平壌市民は、6者会談の継続によって緊張の激化を回避できるとは思っていない。米国によってもたらされるかもしれない「不測の事態」に警戒心を募らせている。米国の政策に追随し、「改正外為法」「特定船舶入港禁止法」など、経済制裁の法制化を進める日本に対しても「強硬策」による対応を主張する世論が高まっている。

「拉致カード」の真相

 平壌発で国内世論をこのように伝えると、海外メディアは「表面上は強硬姿勢を示すが、実際の外交では現実的な対応をとらざるをえない」などと注釈をつける。朝鮮中央テレビや労働新聞などが伝える「強硬姿勢」は「国内宣伝用」で、外国との交渉において「北朝鮮は原則よりも実利を追求するだろう」というわけだ。海外メディアが朝鮮外交を解説する際に、よく使うレトリックである。

 第2回6者会談終了から数日後、朝鮮外務省の関係者から興味深い話を聞いた。

 「朝鮮の外交官が『実利』を追求するような行動をとれば、人民が黙っていないでしょう」

 彼は、対日外交が専門で日本の世論動向について独自の分析を披露した。結論からいうと「日本の対朝鮮強硬策は、いうならば最後のあがき」であり、「脆弱性の表れ」だというのだ。

 昨年末、北京で朝鮮外務省関係者と日本の「拉致議連」メンバーの接触があった。第2回6者会談の直前には、日本の外務省関係者が平壌を訪問した。日本のメディアのほとんどは、一連の交渉で拉致被害者家族の帰国問題だけが話し合われたかのように伝え、「北朝鮮は政治、経済的窮地から脱するルートを対日関係改善に求め、『拉致』カードを切った」と解説した。

 平壌で取材してみると、日本で報道されなかった事実を確認することができた。朝鮮側は一連の交渉で、朝・日平壌宣言の精神に背いた日本の行動を厳しく追及したという。特に、日本の米国追随姿勢を問題視した。朝鮮の国内世論を背景に「超強硬策」の対応もありえるとの警告メッセージを伝えたという。

 前述の外務省関係者も「日本が態度を改めれば、拉致問題は実務的に解決できる。朝鮮が日本と会談を行う目的は、植民地時代の歴史を清算するためだ」と指摘した。

「主導権は朝鮮に」

 今日の朝鮮民族は外国勢力によって支配され、抑圧された過去の朝鮮民族ではない―、平壌市民が常に口にする言葉だ。朝・日平壌宣言発表から1年6カ月、核を巡る米国との攻防戦が激しさを増す中、国家と民族の「尊厳」に対する人々の意識は一段と高まった。

 「われわれは被害者だ。何のために加害者である日本に頭を下げる必要があるのか」

 外務省関係者のこの指摘は、平壌市民たちの声とすこしも違わなかった。対日関係における原則は国内の世論、メディアそして外交政策のすべてに一貫している。

 「在日同胞が厳しい状況に置かれていることは知っている。日本のメディアの伝える情報をうのみにすることなく、今の現実を冷静に判断してほしい。主導権は朝鮮にある」

 外務省関係者との対話から数週間後、労働新聞(23日付)に対日問題に関する長文の論評が掲載された。内容は外交官から聞いた話を彷彿させるものだった。論評には次のような一節がある。

 「実現不可能なことをできるといって、じたばたする者ほど哀れな人間はいない。対朝鮮圧殺をもくろむ反動勢力は、まさにそのような人間たちである」

 平壌の視点がとらえた、現在の日本の姿である。(金志永記者)

[朝鮮新報 2004.3.25]