そこが知りたいQ&A−平壌宣言再確認の意味は |
Q 1年8カ月ぶりの朝・日首脳会談。何が話し合われたのか。 A 朝・日両国は小泉首相の訪朝計画を発表した際、その目的が朝・日平壌宣言履行と「信頼関係回復」にあると指摘した。2002年9月17日に行われた1回目の首脳会談の結果、朝・日平壌宣言が発表されたが、日本では「拉致問題」で世論が硬直化し、両国間に対立と不信の連鎖が起きた。 小泉総理は、現在の膠着状態の原因をつくった日本側の立場を修正、原点に立ち戻るために訪朝を決断し、朝鮮側がこれを受け入れた。2回目の首脳会談開催の経緯を一言で説明すれば、このようになる。 日本の政策方針を朝鮮との関係改善という本来の軌道に乗せるという見地からすれば、日本国内のマスコミが騒ぎ立てた「拉致問題」の「進展」は今回の会談の主眼ではない。日本の総理としては、訪朝結果の説明として「拉致問題」に触れざるをえないが、平壌で行った記者会見の冒頭発言では朝・日平壌宣言の再確認を会談の成果として挙げている。会談の内容を伝えた朝鮮中央通信も同様の指摘をしている。 Q 平壌宣言を再確認したというが、具体的な内容は何か。 A 平壌宣言が示した基本原則は、日本の過去清算に基づいた朝・日国交正常化の実現であった。1年8カ月前、朝・日首脳は両国の敵対関係を友好関係に転換させることで一連の懸案問題を解決するというアプローチに合意した。 日本では、「拉致問題」の「解決」のために朝鮮に対して「圧力」を行使するべきとの主張が世論を誘導してきた。平壌宣言の精神に相反する対朝鮮敵対視政策は宣言の履行を中断させ、1年8カ月にわたる膠着状態を招いた。小泉総理は、その教訓から学び、首脳会談で方針転換の意志を金正日総書記に伝えたと見られる。 朝鮮中央通信によると、金正日総書記は朝・日関係の正常化は「われわれ政治家たちに与えられた歴史的使命」であり、「大局的立場から取り組めば解決できない問題はない」と語ったという。これまで日本が「拉致問題」に捕われて、「近視眼的」な対朝鮮政策を展開したことに対する間接的な指摘とも読める。 小泉総理も、会談後の記者会見で「大局的見地」から関係改善を目指すと明言した。会談内容に関する朝・日双方の発表から察するに、小泉総理は平壌宣言に署名した当事者として「任期内の国交正常化実現」の意志を表明したのかもしれない。 Q 小泉総理は会談で、「在日朝鮮人たちを差別せず友好的に接する」と明言した。 A 朝鮮は、日本の敵視政策を厳しく批判してきた。とくに総連や在日朝鮮人に対する脅迫や迫害を、自国に対する制裁措置の一環として問題視した。昨年の時点で朝鮮外務省が公式に抗議の意志を表明しているが、金正日総書記の直接的指示によるものと思われる。朝鮮外務省関係者によると、「制裁は宣戦布告とみなす」との公言通り、「在日朝鮮人弾圧に対する対抗処置も検討された」という。 今回の首脳会談で平壌宣言を重視すると言明した小泉首相としては、敵視政策転換の具体的事例を提示しなければならなかった。同時に在外公民保護に関する朝鮮側の立場表明を充分考慮する必要があったのであろう。 「在日朝鮮人に対する友好政策」の具体的内容は、再開される国交正常化交渉で討議されることになる。平壌宣言には朝・日双方が国交正常化会談で「在日朝鮮人の地位問題」を「誠実に協議する」と明記されている。 Q 核問題に関してどのようなやり取りがあったのか。 A 朝・日両国が、平壌宣言に沿って国交正常化するうえで障害となるのが米国の対朝鮮敵視政策だ。2002年9月の首脳会談を契機に、両国は関係改善のプロセスをスタートさせようとしたが、米国はその1カ月後に「濃縮ウランによる核兵器開発」を朝鮮が「認めた」と一方的に発表した。米国は、核問題を口実に北東アジアで始まった和解と協力の動きにブレーキをかけ、日本は米国の対朝鮮強硬策に便乗した。 現在、6者会談は「一括妥結原則に基づいた同時行動」によって核問題を解決するという朝鮮側の主張を米国が頑なに拒み、膠着状態にある。今回の首脳会談では、朝鮮側が同時行動の第一歩として提示した「核凍結対補償」案に関する説明があったものと思われる。小泉首相は、会談でのやり取りをブッシュ大統領に伝える意向を示したという。来月、米国ではサミットが開かれる。 朝鮮側が日本に仲介を頼んだかどうかは定かではないが、小泉首相が「ペーパーのない親書」を携えて訪米する必要があると判断したとしても不思議ではない。米国の対朝鮮敵視政策が続く限り「任期内の日朝国交正常化」の実現は困難だからだ。 Q 今後の展望は? A 平壌宣言の再確認という首脳会談の成果は、行動によって実証されなければ意味がない。日本側は、再開される国交正常化交渉に「大局的」な立場で臨むべきだ。小泉首相の政治的リーダーシップが求められる。 日本が関係改善に向けて動けば、朝鮮側は積極的に応え懸案解決で協調姿勢を示すと考えられる。6者会談が暗礁に乗り上げ、核問題を口実とした米国の対朝鮮強硬策に日本が引き込まれる局面も予想されるが、朝鮮側は先月の朝中首脳会談などで「柔軟性をもって6者会談に積極的に参加する」との立場を表明している。朝鮮は、現在の局面を打開するための大胆な外交攻勢を展開している。 金正日総書記は2回目の首脳会談終了後、小泉総理に対して今回の訪朝が「無駄足にならないように」と語りかけた。そして「また会いましょう」といって握手を交わした。単なる社交辞令ではないはずだ。平壌宣言の履行を前提とした再会の約束は、日本のリーダーの責任ある行動に対する朝鮮側の期待と要請であろう。(金志永記者) [朝鮮新報 2004.5.27] |