〈月間平壌レポート〉 停滞する北南関係全面打破へ |
【平壌発=李相英記者】8月の平壌は民族和解と統一の一大祭典場になるはずだった。2000年の6.15共同宣言発表後、北と南、海外の同胞が集い、統一を願う人々の熱気であふれ返っていた8月の平壌は今年、北南交流事業の全面的停滞により近年まれに見る静けさに包まれた。 「民族共助に逆行はない」
8月初旬に予定された閣僚級会談は、再開のめども立たないまま延期され、民族統一大会や作家会議などの民間行事も軒並み中止となるなど、北南関係は時間が止まったような感じを受ける。 「今日は家族と一緒にピクニック。のんびりと過ごす8.15もいいけど、統一行事が行われないのは、やはり寂しい」 解放記念日に、西山ホテル前の野外バーベキュー場で出会ったある平壌市民の言葉だ。 市民らは、民族共助の雰囲気に水を差す南当局に失望しながらも、この停滞状態が一時的なものであり、長くは続かないとみている。 同日夜に区域別で行われた青年たちの野外舞踏会。色とりどりの服で着飾った若い男女が軽快な音楽に合わせ楽しそうに踊る様は、この日が植民地の圧政を打ち倒し解放を勝ち取った、民族の特別な記念日だということを思い出させるに充分な光景だった。 朝鮮の若者はいつも楽天的だ。記者と同世代の若者を取材すると、根拠のない漠然とした楽観ではなく、言葉の端々から確固たる信念を感じることが多々ある。 中区域に住むリ・ジョンフィさん(27)は、「和解と共助の流れが逆行することはありえません。私たちは信じる道を行くだけです」と明るい表情で語った。「来年8月の平壌は、人々があっと驚く民族の大祭典で賑わうことでしょう」 静寂の中にも、平壌市民は来年の解放60周年に向けた決意を新たにしていた。 五輪の熱気、平壌にも 北南関係で明るい話題がないわけではない。 13日、アテネオリンピックの開幕式で北南の選手団が合同で入場行進を行った。開幕式の模様は朝鮮でも放映され、平壌市民は統一旗のもと北南の選手と役員が手を取り合い行進する感動的な姿を、テレビで感慨深く見守った。 市民の間からは、「2008年の北京オリンピックは必ず統一チームで」という声もあがるなど、停滞する北南関係の起爆剤になればという期待もにじむ。 世界中のアスリートが連日熱戦を繰り広げているアテネオリンピック。多分に漏れず朝鮮でも関心が高い。 北の朝鮮中央放送委員会と南の放送委員会との合意のもと、南から北へ映像が提供され、競技の模様が朝鮮中央テレビで毎晩1時間ほど録画放映されている。陸上や水泳、サッカーなどお馴染みの競技から、フェンシングや乗馬、重量挙げなど、日本では自国の有力選手が出場しない限りほとんど扱われない「マイナー」種目も放映され、なかなか興味深い。 絶叫するアナウンサーや、場違いな発言を繰り返すテレビタレントも出てこない。競技の映像に淡々とした実況と解説がはさまれる朝鮮のスポーツ放送は、耳障りなところがなく心地よい。 ただ、ダイジェスト版のうえ放送時間も短く、スポーツ観戦が好きな記者にとっては少々残念なところだ。 本稿執筆時の24日、朝鮮選手のメダル獲得数は銀3つ、銅1つの計4個。物足りない途中結果には違いないが、市民は大会閉幕の29日まで自国選手の金メダル獲得へ期待を寄せている。 転換の時に備えて 8月も中旬を過ぎた頃から、平壌にはもう涼気がさしてきた。 今年夏の平壌の最高気温は33℃ほど。日本を襲った記録的な猛暑に比べればどうということはないのだが、それでも市民にとっては真夏の暑さは身にこたえるようだ。東京では連日35℃近くまで気温が上がったという話をすると、人々は「信じられない」といった表情で顔をしかめる。平壌市民はどうも暑さは苦手なようだ。 暑さが過ぎ、秋の収穫期を前にして、農業に関する興味深い話を聞くことができた。 朝鮮に対する農業支援のため平壌を訪れた民主党の鮫島宗明衆議院議員とのインタビューの席上、農業の現状について質問した記者に対して議員はこう答えた。「朝鮮の農業は精密で丁寧で、そのレベルはとても高い」。農学博士でもあり東京農大の客員教授も務める専門家の口をついて出てきた、「意外」ともいえる一言が印象的だった。 その直後の言葉がより心に残った。「朝鮮の農業における困難は農業自体に問題があるのではなく、エネルギー不足が主たる原因だ」 農業問題を解決するためのさまざまな試みを評価しつつも、農業に限らず朝鮮の産業全般が抱える問題点を的確に指摘した鮫島氏の言葉に、はっとする思いがした。 人々は直面するさまざまな問題を解決するためにも、朝米関係をはじめとする現在の対外関係の閉塞状態を全面的に打破し、一大転換をもたらすことが必要不可欠だと見ている。秋の気配が現れ始めた平壌は、来るべき転換の時に備えている。 [朝鮮新報 2004.8.30] |