保安法廃止、緊急なテーマ−国家人権委勧告、民労党など即時受け入れ求める |
既報のように、南の国家人権委員会は8月24日、国家機関としては初めて「国家保安法」の廃止を勧告した。1948年、日本の「治安維持法」を母体に制定された同法は、自由と民主、統一を求める民衆や団体を弾圧するための手段として乱用されてきた。4月に行われた総選挙で第1党となった「開かれたウリ党」や民主労働党は同法の廃止を全面に掲げ、その動きを活発にしている。これまで、民間レベル以上の広がりが困難だった同法の廃止論議は、南社会全体の緊要なテーマとして浮上した。 正当性の欠如 国家人権委員会は勧告でまず、保安法が制定後56年の間に7回にわたって「改定」されたが、その手続きの面において正当性が欠如していることに触れた。 具体的には、@58年の3次「改定」の際、武装警察を動員し野党議員を議事堂の外に退去させた後、与党議員だけでわずか3分で通過させた、A80年には民主的正当性のない「国家保衛立法会議」を通じ6次「改定」が行われたが、上程、提案、説明、可決にわずか5分しかかけなかった、B91年の7次「改定」の際には野党議員に審議、表決の参加機会すら与えず35秒で通過させた。 勧告はまた、03年に自ら行った「『国家保安法』適用による人権実態調査」の結果にも触れた。 それによると、「保安法拡大解釈の危険性を除去した」という7次「改定」ではあったが、「文民政府」(金泳三政権)と「国民の政府」(金大中政権)の期間である93〜03年の統計だけみても、同法による拘束者3047人のうち、2762人が7条によって拘束されていた。 具体的な事例として、03年7月に建国大学生闘争委員会がインターネット上で資料集として紹介した文書が「国家変乱を宣伝、扇動」する利敵表現物という理由で7条5項の適用を受けたことや、同年8月にストライカー部隊訓練場へ進入しようとして拘束された学生を護送した車両を阻止しようとして拘束された学生に対し、利敵表現物取得の容疑が適用されたが、逮捕の理由とはまったく関係のないことなどをあげた。 一方、法律的な側面から同法の第2、3、4、7、10条は民主主義の基本前提であり近代刑法の最高原理である罪刑法定主義に反し、良心、言論、出版、集会、結社、学問、芸術の自由などの基本的自由と権利に対する侵害の素地があると指摘した。 「国家の存立、安全や自由民主的基本秩序を危うくするということを知りながら」という主観的な構成要件が付け加えられた第7条は、第1項で「称揚、鼓舞、宣伝および国家変乱の宣伝、扇動」を、第3項で「利敵団体の構成および加入」を、第4項で「虚偽事実の流布とねつ造行為」などを行った人間を処罰すると定めている。 また、「反国家団体の構成員」というだけで、さらには「反国家行為」実行前の「予備、陰謀」の段階でも処罰対象と規定している第2、3、4条は、近代刑法の「行為刑法の原則」に反する「心情刑法」だと批判されてきた。 政治の第1課題に 国家人権委員会の今回の勧告は、立法府(国会)と政府当局(法務部)に公式に行われたという点と、市民社会団体ではない国家機関が、同法の廃止を公式化したという点においてその意味が大きい。 今回の勧告について、政界と民間はおおむねこれを歓迎している。 民主労働党は8月24日に論評を発表し、「人権侵害行為を調査、救済し、人権に関する法令、制度、政策、慣行の調査と研究を担当している国家機構として、保安法廃止の立場を明らかにしたのは、人権問題と直接的な関連がある実証的な結果であるため意味が大きい」と指摘したうえで、国会と法務部が勧告を受け入れることを促した。 32の人権団体で構成される「人権団体連席会議」も同日、共同論評を発表し「保安法は人権侵害要素によって制定後56年間常に人権侵害論議を招いてきた」と述べながら、「国会は勧告を受け入れすぐにでも同法を廃止」することを求めた。 このほかにも参与連帯や「民主化のための弁護士の会」も論評を発表し、国家人権委員会の勧告を歓迎しながら、保安法廃止を政治の第1課題にすべきだと主張した。 その一方で、保安法を維持しようとする勢力の動きも顕著になりつつある。 憲法裁判所は勧告が発表された2日後の8月26日、同法7条の称揚、鼓舞罪および利敵表現物所持罪に対する憲法訴願事件について、全員一致で合憲の決定を下した。 憲法裁判所の決定は保安法維持をもくろむ勢力に一定の影響を与えるとの見方もあるが、すでに政界では100人を超える国会議員が廃止に賛成し、大勢は「同法の現状維持は難しい」という方向に流れている。 同法の廃止は北を「北半部を不法に占拠した反国家団体」と規定している憲法改正にもつながり、ひいては米韓相互防衛条約など、冷戦時代に形成された「北敵視」の法、条約の改廃を伴うことになるだけに、今後の動きが注目される。(李松鶴記者) [朝鮮新報 2004.9.2] |