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〈月間平壌レポート〉 「憎悪の連鎖」断ち切る対話と交流

 【平壌発=李相英記者】8月とはうって変わり、9月の平壌はさまざまな国際行事や外国要人の訪問により、慌しくも活気にあふれる雰囲気となった。今月開催された第9回平壌映画祭典や第1回国際武道競技大会などの国際イベントは、各界各層の友好と親善をさまざまなレベルで促進していこうとする、朝鮮の積極的な対外姿勢をアピールするものとして捉えられている。もちろん市民の関心度も高い。各国の人々が集う華やかな行事の現場に足を運び、参加者の声を拾ってみると、朝鮮を取り巻く国際関係の現状が垣間見える。

朝鮮で映画を製作

英国のランメル次官と会談する白南淳外相 [朝鮮中央通信=朝鮮通信]

 2年に一度平壌で開かれる映画のお祭り、平壌映画祭典。観賞券が飛ぶように売れ、定員300人の劇場に400人以上がつめかけた。ふだん外国の映画を見る機会の少ないこともあるが、朝鮮の人々にとって映画とは単なる娯楽以上の重要な意味を持っている。

 「たかが映画、されど映画」−映画祭に参加した日本の山本晋也監督が、自身の映画哲学としていみじくも語っていたように、ハリウッドに代表される巨大映画資本からすれば、朝鮮の映画など「たかが映画」なのかもしれないが、人々にとっては「されど映画」なのだ。

 取材のため映画を数本観賞したが、印象に残った作品が2本ある。英国の映画「心の国(A State of Mind)」と、日本のフォトジャーナリスト・伊藤孝司氏の作品「アリラン峠を越えて」。

 1966年英国ワールドカップでアジア初の8強に進出し、大旋風を巻き起こした当時の朝鮮代表サッカーチームを扱った記録映画「生の競技(The Game of Life)」を世に送り出した、映画制作会社「Very Much So」の作品「心の国」は、昨年9月のマスゲームに出演した朝鮮の2人の女子中学生とその家族の生活を追ったもの。

 「西側メディアによりネガティブ一色に塗りつぶされた朝鮮を、『別の視点』から見る必要性を訴えかけたいと思った」

 制作者のダニエル・ゴードン氏は、「英朝外交関係の樹立と、われわれが朝鮮の地で映画を制作できるということは決して無縁ではない」と語る。その逆もまた然り。彼らの地道な活動が、両国間の交流に少なからぬ影響を与えているだろうことは想像に難くない。

 折しもビル・ランメル次官を団長とする英国外務省代表団が11〜14日まで訪朝し、朝英関係、核問題、人権問題など、互いの関心事について意見交換を行った。英代表団の訪朝に言及した16日付の外務省スポークスマン談話は、「会談では互いの間で一部異なった意見も提起されたが、双方は真摯に討議を行うことによって一定の理解に到達した」「全体的に今回の英代表団の訪朝は、大変成果のあるものだった」と指摘した。

 「心の国」の上映日、会場には作品に登場した女子中学生のうちの1人であるキム・ヒョンスンさんとその家族が招待されていた。上映終了後、観客のスタンディング・オベーションに答える両者の姿は、紆余曲折を経ながらも着実に発展していく両国の民間交流の一端を見せてくれた。

果たされぬ過去の清算

 一方、日本軍の「従軍慰安婦」だった朝鮮在住の郭金女ハルモニを撮った「アリラン峠を越えて」も、朝・日平壌宣言発表2周年を間近に控えた時期とあって注目度は高かった。

 観客の感想を聞くと、予想通り朝・日関係についての厳しい意見が口をついて出てきた。

 平壌宣言発表から2年。ハルモニの心の叫びはいまだ日本政府の耳に届いていない。拉致問題の肥大化により、両国間の本質的な問題が覆い隠され、過去の清算は向こうへ追いやられている。

 「心の国」がBBCで放映され、国内の新聞紙上でも頻繁に取り上げられた反面、「アリラン峠を越えて」が日本の大手メディアの目に止まることはない。

 現場の関係者は、山本監督や伊藤氏の地道な活動に敬意を表しつつも一向に好転しない朝・日関係に苛立ち、日本政府の不誠実な態度に失望していた。

 「無知は恐怖を生み、恐怖は偏見を生み、偏見は差別を生む。この連鎖を断ち切るためには、互いを真摯に見つめ合う着実な対話こそが必要だ」。山本監督の切実な訴えは、日本政府とサイレント・マジョリティに向けられていた。

自家撞着の言動

 9月に入り、情勢はますます流動化する兆しを見せている。

 国内新聞各紙には、南朝鮮の秘密核実験により明らかになった核に対する米国の二重基準を非難する論評が連日掲載され、朝鮮は米国の二重基準がまかり通る状況下で、秘密核実験の真相が究明されない限り、6者会談には応じられないとする立場を明確にしている。

 朝鮮半島問題に関する米国の言動は完全に自家撞着に陥り、朝米間の対立は激化の一途をたどっている。「国家保安法」廃止論議など南の政情とも相まって、ここにきて朝鮮問題に関する諸矛盾が一斉に噴出している感がある。

 関係各国の動きは市民にとって関心事であることに違いないが、人々はその結果に対し過度な期待をかけてはいない。

 「われわれはただ米国の対朝鮮政策を問題にするだけだ」。16日付外務省談話が指摘するように、解決の鍵は米国の対朝鮮敵視政策の放棄と見ている。問題はここでも同じ。対立のエスカレーションを止めるためには、朝米対話が不可欠ということだ。

[朝鮮新報 2004.9.25]