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平壌のキムジャン事情、材料確保と漬け込み 夫婦が作業の役割分担

 【平壌発=姜イルク記者】11月はキムジャン(キムチを漬けること)の季節。次の年の春先まで食べる大量のキムチを漬ける、各家庭での「年中行事」になっている。平壌には、キムチを漬けない家庭はないと言っても過言ではない。平壌のキムジャン事情を取材した。

「野菜戦闘終えた?」があいさつ代わり

姉、隣人の助けを借りてキムチを漬け込むファン・ボクスンさん(右から2人目)。

 キムジャンのこの季節、市内では、白菜をぎっしり積んだトラックが街中を忙しく走り回る姿がよく見られる。中には、乗用車、バスを利用することも。テレビ、新聞などのメディアは、キムチのおいしい漬け方はもちろん、こうした風景も大々的に紹介している。

 朝鮮でのキムチを漬けるための工程をおおまかに見ると、@白菜、大根など材料の収穫、A家庭への移動、B塩漬け、Cヤンニョムのすり込み、となる。この一連の作業においては、男女、夫婦の役割がはっきり区別されている。

 世帯主の仕事は@とAだ。コメなどの食料は食糧供給所で行われるが、キムチの材料一式は、共働きの場合でも世帯を持つ男性だけに職場から国定価格で供給される。従って、男性は否が応でも@とAの作業をこなさなければならない。これは02年の経済管理改善措置以後も変わりない。

 男性らは、この作業を「野菜戦闘」と呼んでいる。平壌市民の間ではよく「野菜戦闘を終えたか?」という言葉が聞かれ、11月初旬から中旬にかけたこの時期の、男性同士独特のあいさつ言葉にもなっている。

 「野菜戦闘」という言葉は多少大げさに聞こえるが、それなりの根拠はある。数百キロに及ぶ野菜を、職場の管理する畑で割当量だけ自らが収穫し、泥を落とし、持ち運ばなければならない重労働だからだ。この作業は、同僚と仕事の調整をしながら時間を割いて、1日かけて集中的に行う。

 一方、BとCの作業を行うのは家庭主婦だ。職場では、家庭主婦の従業員に2日間の「キムジャン休暇」を与えている。

 キムジャンの一切を仕切るのは主婦で、日時を決めるのも主婦だ。

 一般家庭では、漬けた白菜キムチを次の年の1月1日に開封する。時期設定をうまくしないと、キムチが酸っぱくなってしまったり、発酵しないまま正月を迎えることになるので、主婦らは時期の見極めに神経をとがらせる。

キムチ漬けられない人用に工場でも生産

 平壌市人民委員会には、キムチ工場指導処という単独の部署がある。各区域に1カ所ずつ、計11存在するキムチ工場の運営を担当し、提起された問題を解決したり供給事業を見ている。

 11の工場は、諸事情によってキムチを漬けられない家庭や合宿生のため、94年に同時に建設された。

 平川区域の工場を見ると、80人の従業員のうち、家庭主婦30人、結婚前の女性30人、男性20人。女性は基本作業を、男性は運搬などの補助作業を行うなど、ひとつの家庭のように役割が分担されている。

 11月上旬、平壌市人民委員会の社会給養管理局の役員と会った際、キムチ工場指導処の役員らは11月が一番忙しい時期で、全員はりきって仕事をしていると話していた。

家庭ごとに独特の味 「煮豚の皮肉まぜる」

 平壌市牡丹峰区域にある18階建てアパートの1802号室、リ・ヨンチョルさん(43)宅の場合、主婦のファン・ボクスンさん(39)は、13日からキムジャンをすることに決めた。

 ファンさんは、「今年は温かいので、例年より少し遅めに設定した」と説明。「もう少し遅くても良かったかな」とあまり自信はなさそうだった。

 でも、味には自信があるとか。「主人も息子もおいしいと言ってくれる」。

 キムチの味を左右するのはヤンニョム。その味は、家族・親せきや友人らと情報を交換したり、アドバイスを受けながら「発展」させてきたという。

 さらにファンさん宅では煮豚の皮肉を少し交ぜると良いという話を聞いて、2年前からそうしているという。また同時に、最近流行になっている防腐剤を使い始めた。「キムチフッ素防腐剤」というこの薬剤は、テレビ、新聞で繰り返しその効果について宣伝されている。キムチの味が長持ちするだけでなく、フッ素が体にもとても良いということから、ほとんどの家庭に導入されているとか。

 アパートを訪ねた15日の昼、ファンさんとともに、ファンさんの姉、隣の1804号室の主婦と娘さんがいた。リさん宅のキムチを漬ける量は、白菜だけで200キロ。大がかりな作業だけに互いに助け合っているという。

 「姉と隣の家庭でキムジャンをしたときにも手伝った。毎年、3回キムジャンをすることになっている」と語る。昔から朝鮮民族はキムジャンをするとき、家族・親せきや隣近所が集まり、助け合いながら行ったというが、その風習は今も変わりない。

 ちなみに、世帯主は観光会社の運転手で、家の帰りはいつも遅く、帰らない日もたびたび。ファンさんは、「主人は家庭のことなど気にもかけないが、キムジャンのときだけは協力的」「マッサージしてくれたこともある」と満足そうに話していた。

 職場の同僚と互いに助け合い、協力しながら行う朝鮮のキムジャンは、各職場の団結力を発揮するばかりでなく、家庭円満の大きな秘訣にもなっているようだ。

[朝鮮新報 2004.11.20]