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朝鮮の食を科学する〈24〉−大豆文化の究極は清国醤

 朝鮮の食べ物に大豆を利用したものが多い。みそ、しょうゆ、豆腐、もやし、きな粉など。この大豆の原産地はアジアで、朝鮮北部からその北方のアムール川流域の地帯というのが有力である。

長寿に効く

 大豆は栄養に富んでおり、すぐれたタンパク質と脂質が多く、ビタミンも各種ある。

 豆腐などの大豆加工食品が健康に良いと評価されてきた理由はここにある。さらに近年の研究成果では、イソフラボンという女性ホルモンになる成分が人の健康、とりわけ長寿にかかわる作用をすることで注目されてきた。アジアの大豆食品を利用する地域の平均年齢が高いのが裏付けられることとなったわけである。

 豆腐のような形態の食品が中国から知られるようになったのは14世紀以降とされている。

 中国大陸で豆腐が考案されたのは、遊牧民族が動物の乳からつくるヨーグルト(乳腐)にヒントを得て、豆乳を固めて「豆腐」としたとされている。

 朝鮮でこれをつくったときは、はじめは「泡(ポッ)」と呼んでいた。豆乳にして固めるときの作業で泡立ちがみられるからだ。そして出来上がったものを「造泡(チョポッ)」とした。この言葉が訛っていまも조푸(チョプ、慶南)、조피(チョピ、慶北)と呼んでいるところがあり、두피(トゥピ、江原)、둔비(トゥンビ、済州)のところもある。造泡の言葉の地域が普及の早かった地域とみられている。

 文献に豆腐のつくり方が具体的に出てくるのは18世紀末ごろからで、この頃からは「豆腐」の表記になっている。

 朝鮮豆腐の特徴は、縄で縛って持ち歩けるほどの固さの「막(マッ)豆腐」、娘のきれいな手でなければ崩れてしまうという「軟(ヨン)豆腐」、豆乳を熱湯からすくい上げたままの「순(スン)豆腐」、麻布で押し固めた「배(ぺ)豆腐」、絹布で押し固めた「비단(緋緞・ピダン)豆腐」など、種類が多彩である。

 「韓国」での豆腐料理の主流は「순豆腐」と「막豆腐」だろう。ソウルでは緋緞豆腐もみられる。

 在日の生活では순豆腐を味わうことはむずかしい。やわらかい舌ざわりを生かし、순豆腐料理専門店が「韓国」では幅をきかしている。순豆腐チゲも別格であり、豆腐料理としては固いものよりも、この方が大豆の価値を生かしているように思える。

 순豆腐状態を絞ると固い豆腐とおから(비지・ピヂ)に分かれる。ピヂという言葉は、豆腐の滓という意味の腐滓(プジェ)が비지となったようだ。これも決して「滓」とはいえない。タンパク質も少しは残っているし、イソフラボンも十分にあり、何よりも食物繊維の宝庫で、各種料理への用途は広い。

 布で絞って押さえた豆腐の固さは、日本のものよりも固い。この固さを豆腐煎、豆腐チョリムにできるのだが、在日の家庭では作りづらい。日本の木綿豆腐がやわらかいからで、自分でもう一度押さえ固めてから利用しているのをよく見かける。

骨粗鬆症の予防にも

 朝鮮の固い豆腐が四国の高知にいまでも見られる。豊臣秀吉が朝鮮を侵略したときに連れてこられた、慶尚南道出身の朴好仁一族が、生活のために運営した「豆腐座」の名残である。

 この地方では、むかしは豆腐を縄にくくりつけて運んだし、いまも正四角形の固い豆腐であり、むかしの朝鮮豆腐の特徴が引き継がれている。「いなか豆腐」と呼ばれる固い豆腐のほかに「かし豆腐」と呼ばれる「トトリムッ」も豆腐座で扱われたようで、この地方の郷土料理になっている。

 大豆を加工して作る納豆は、日本特有のものと受けとめがちだが、決してそうではない。朝鮮には古くから清国醤(戦国醤とも表す)がある。韓国では、いまでも手作り清国醤が市場で存在感を示し、日本でも韓国食材店で扱われている。

 清国醤は納豆と同じ細菌のバチルス納豆菌がついた発酵調味料である。この清国醤の形になれば、納豆と同じく脳血栓を防いでくれるし、骨粗鬆症の予防にもなる。もちろんイソフラボンもあるわけだから、長寿への条件はぴったりだろう。

 その意味では清国醤のテンジャンチゲ鍋は、まさに大豆文化の生んだ健康料理そのものだろう。(鄭大聲、滋賀県立大学教授)

[朝鮮新報 2004.2.20]