〈女性・仕事・作品〉 朝鮮料理研究家・金徳子さん |
東京都渋谷区で「狐狸庵家庭料理ナルゲ」を営みながら、雑誌に連載を持ち、数々の料理教室講師をつとめるなど、幅広く活動している料理研究家の金徳子さん(60)。本社発行の月刊誌「イオ」でもたくさんの料理を紹介している金さんが、来月、朝鮮料理の専門書「韓国料理の新しい魅力」(旭屋出版)を出版する。 巻頭の辞で金さんは、自分には「3つのオモニ(母)の顔」があるとして、それは家族の健康を気遣い母から教わった伝統の味を守る家庭での「オモニの顔」、「料理教室の講師としての顔」、そして「翼(ナルゲ)の店主としての顔」だと話している。 山口県出身の在日2世である金さんは、結婚を期に上京。姑である朝鮮宮廷料理で名高い、申小南師に朝鮮料理の師事を受けた。 「姑は幼い頃から文人であった父親のもとで両班の食事に接していた。19歳で日本に渡り、日本で新たな食材に出会い、両班料理の伝統を守り続けた人でもあった」 慶尚道出身の母をもつ金さんは、結婚当初、全羅道出身の姑のもとで地域ごとの味の違いに驚いたと言う。「慶尚道は辛くて、しょっぱくて、(色が)濃いとどれほど怒られたことか」と、若かりし頃の姑とのやり取りを懐かしそうに振り返る。 「姑は、美味しくなくっちゃ料理じゃないといつも言っていた。切って、煮て、焼いて…そうしたことは誰にでもできる。『美味しい料理を食べるのが娘の役割なら、嫁は味覚を目で見て覚え、その味を受け継ぐのが役目』と話していた」 在日2世の金さんが作る料理には、母、そして姑から受け継いだ伝統の味と、日本の食材を使った独創的なものが含まれている。 子どもの頃日本の学校に通っていたという金さんは、結婚後「民族教育を受けた者こそが真の国際人になりうる」という考えから、4人の子どもをすべて朝鮮学校に入れ、子どもたちと共に朝鮮の歴史や言葉、祖国について学んだと言う。女性同盟渋谷・世田谷支部で姑と共に同胞女性のための料理教室を開き、子女教育部長として奮闘した経験は、現在も朝鮮料理を通じて在日の若い世代や日本の人々と親しみあふれる関係を築く形で保たれている。 「私たちにとって今はとても大変なとき。こういう時だからこそ文化を通じて触れ合うことが大切だと思う。隣の国はどうこうじゃなくて、隣の家、隣の人はこういう物を食べているんだ。日本食とは違うけどおいしいねってわかってもらえたら、少しは隣の国の人々を理解できたような気持ちになるじゃない。日本にこれほどまで世界の料理が氾濫する時代に、食文化を通じた交流は何よりもやさしい交流だと思う」と金さんは話す。 昨年12月22日、テレビ朝日放映のスーパーJチャンネル「奥様鑑定団〜北朝鮮スペシャル〜」に出演し、「第2回各道特産料理競演」に出品された、ソンピョン、うなぎの宮廷巻き蒸し、大根えび蒸しを再現した。 「奥様鑑定団」の判定は5つ星満点の4つ星、5つ星とそれぞれ高いものだった。スタジオの出演者たちも「彩りがきれい」「初めて食べる触感」「朝鮮半島は昔から料理のおいしい国だから」と称賛を惜しまなかった。 「結果が良くて本当に良かった。見るところ、聞くところ朝鮮の良いことにはほとんど触れないから」と金さん。食文化を通じて朝鮮への理解を深める一助を果たしたことに喜びを感じている。 金さんの料理はインターネットのサイト「焼肉天国」(http://www.yakinikutengoku.com/recipe/index2.html)で見ることができる。また、毎月第3土曜日に「狐狸家庭料理ナルゲ」で料理教室も開かれている。(問い合わせ TEL 03・3461・8286)(金潤順記者) [朝鮮新報 2004.2.21] |