〈チョ・ウンリョン監督追悼〉 映画「ハナのために」を観て |
たったひとりの人の誠実に 日本で暮らす同胞の民族教育をテーマにしたドキュメンタリー映画「ハナのために」を観終わった帰り道、ふと詩が浮かんだ。
朝鮮学校に通う澄んだ瞳の子どもたちの夢を映画に託したい一念で、チョ・ウンリョンさんは3年間ウリハッキョを取材した。志半ば、不慮の事故で他界し、その遺志を受け継いだ夫の金明俊監督によって完成した遺作は、同胞たちに深い感動を与え、大きな拍手が鳴り止まなかった。 韓国人の映画監督が朝鮮学校を訪れ、教室にカメラを持ち込み、撮影するということは、並大抵なことではなかったろう。半世紀以上にわたる南北分断の壁(不信や偏見)をものともせず、ヒョイと飛び越えた瞬間、みんながハナになった。 「この子たちが、日本で生まれ育ったけれど、どれだけ祖国を愛し、民族文化を守ってきたのかを韓国の人々に見せてあげたい…、この子たちはまさに、私たちの子どもである」その思いが人を突き動かした。 映画は、インタビュー、ウリハッキョの生活、子どもたちの姿、チョ・ウンリョンさんの日記、そして彼女を追悼する場面で終わる。子どもたちは自分の夢を語り、女先生の中で一番美人なのはチョ・ウンリョンソンセンニムだと、くったくなく笑い、一緒に弁当を食べ、キャンプではしゃぎ、子どもたちと撮ったスナップ写真などに温かい心が伝わってきた。ハナのための真摯な姿がそこにあった。「ハナのために」と、ほんとうにみんながそう思った。ハナとは無論祖国の統一を願っていること、その為には、何をすべきかをこの映画は問いかけている。 なによりも、人を愛し信じること、ためらわずに交わること、手を握ること、目を見つめること、笑い抱き合うこと、分かち合うこと、それがハナになること、だと。 この映画を全国にある朝鮮学校の子どもたちに、ぜひ観てほしい。「韓国」にもこんなに在日を愛した人がいたことを知ることが、ハナに繋がることだから。 彼女を偲んで、校庭に植えた木から、春にはハナが美しく咲くことだろう。チョ・ウンリョンのハナが子どもたちにやさしく語りかける。夢は叶えているのかと。(李芳世、詩人) [朝鮮新報 2004.3.22] |