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「美しく、潔い生の輝き」、120冊超えた岡部伊都子さんの著作

 1人の女性として、日本の侵略戦争の原罪を背負い、そこから決して目を背けず50年あまり執筆し、発言し続けてきた文筆家、岡部伊都子さん。人の心に響く作品はすでに120冊を超える。

 戦後ずっと愛する人を戦争に追いやってしまった自分の原罪、罪を見つめてきた。その人木村邦夫氏のことを岡部さんは、片時も忘れたことはない。

 岡部さんはそのできごとを、「絶対に許されないわが罪」と、胸に刻みながら生きてきた。最初から、戦争に夫や恋人を奪われた被害者としての自己ではなく「加害者」としての「私」と徹底的に向き合い、その心の痛みをさらけ出してきたのである。

 また、岡部さんは、朝鮮の統一や在日朝鮮人問題、沖縄や差別問題にも真正面から向き合い、心を寄せ、さまざまな支援を寄せてきた。

 その岡部さんが昨今の朝鮮バッシングや「経済制裁」「万景峰92」号の入港禁止を求める日本の動きに強い危惧の念を表している。

 「本当に腹立つな」「朝鮮問題は日本の責任や。日本が朝鮮を侵略したから、解放後も分断された。そのことを考えるとつらい」

 「植民地時代、どれほど多くの朝鮮人が労働力として日本に連行され、拘束され、殺されてきたか。どんなに無念だったかと思う。当時生まれた者として私はずっと日本の悪を見つづけてきた。日本がしてきた無礼を何とか正さねばならない」

 岡部さんは今年82歳。病弱の身だが、旺盛な執筆意欲と講演活動は衰えていない。多くの熱心なファンに支えられて、毎年続けている沖縄への旅も5月に控えている。また、昨年末には南側から板門店を訪れた。

 「南北を隔てる鉄条網が果てしなく続く荒涼とした風景。そこに銃を持った米兵が身構えている姿は異常。まさに誰が朝鮮半島に君臨しているかを端的に示す姿だった」

 岡部さんは米兵のその姿を見て「あまりにも悔しくて泣いた、座り込んで泣いた」と語る。その米国と日本によって今も続く朝鮮半島の分断。岡部さんは「日本人がそのことを分からねばならない。そして、日本人も人間として復活しなければ。これからこの日本がまともな人間の世界になることを念じている」と語る。

 岡部さんの全集「岡部伊都子集」(岩波書店)は今も静かなロングセラーを続けている。該博な知識と明快な論理性。鋭い感性。岡部さんのどの本にも汲めども尽きぬ話の泉がある。その魅力について作家の落合恵子さんは「道端の小さな花に足を止め、全身で向かい合う岡部さんと、あらゆる差別と対峙する岡部さんは別人ではない。岡部さんは岡部さんであるのだ」と評したことがある。

 岡部さんは「愛情というものは魂の交歓」であると語る。暮らしと生活の中で鍛えられた思想の強さと豊かな感性が朝鮮半島の人々と文化への深い愛に貫かれている。何と美しく、潔い生の軌跡であろうか。(粉)

[朝鮮新報 2004.4.7]