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「朝鮮名峰への旅」(1) 春霞の中から柔らかな光、白頭山が染まっていく

 初めて白頭山を訪れたのは、91年5月下旬のことであった。

 飛行機が三池淵の飛行場に近づくと、機内からざわめきが起こった。前方に真白な白頭山が、他の山々を従えるように、まばゆいばかりに輝いていた。山岳カメラマンとして世界中、どこの山へも行けるようになったが、国交がないため、白頭山だけは唯一行くことのできない秘境として残っていた。見ることのできない憧れの山がいま、目の前に圧倒的な存在感で聳えていた。

 92年4月、私はまた白頭山を訪れた。この1年間、夏山、秋山、冬山と撮り続け、5回目の訪問である。季節が変わるたびに白頭山は、まったく違った姿を見せてくれる。

 4月の白頭山は春の表情とはほど遠かったが、1月に訪れた時のような厳冬期の厳しさはなかった。三寒四温の言葉どおり、気温はマイナスからプラスへと変わりつつあった。びっしり氷に覆われていた豆満江は氷が割れ、その氷がゆったりと流れはじめている。

 枕峰(ペゲボン)ホテルより車で行けるのは神武城集落までだ。ここから約10キロ先の無頭峰集落までは、雪道を歩く。厳冬期にはスキーを付けての行動であったが、今はつぼ足で楽に歩ける。風が弱く、日射しが強くなっている。歩きはじめるとすぐに暑くなり、一枚また一枚と衣を脱ぐ陽気となっていた。

 無頭峰の宿舎から上部は、すぐにカラマツの樹林はなくなり、森林限界となる。ここから上部はさすがにまだ冬が居残り、時々、厳しい姿を見せる。しかしよく見ると、真白な雪に覆われた厳冬期の世界と異なり、強風と日射しで雪は少なくなり、吹きだまりに残っているだけである。

 日の出時に小高い丘に登る。春霞の中から太陽が昇ってくる。真冬の強い光線とは違う、やわらかな光だ。ほのぼのとした暖かそうな色に、山が染まっていく。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2004.4.16]