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ミニ詩集タリU、廣瀬禮子

オモニの涙 

海峡へだてくにとおく
強制されて炭坑で
解放の日まで働いた
オッパは既に逝きし人
統一の日をあれほどに
待ち焦がれしも叶わずに
骨となりたる悲しみよ
往来のタリよ夙くかかれ

戦中戦後のイルボンで
働き育てし子どもらは
差別にめげず伸びゆきて
孫も笑顔でハルモニと
呼ばれる楽しみ今あれど
夫逝き舅逝き遙かなる
郷里の墓参いつできる
政治のタリよ夙くかかれ

半世紀経て漸くに
分断埋めゆく今となり
日朝国交促進へ
糸口開けしその後はや
裂かれし娘のチマ・チョゴリ
痛みは過去のことならず
心のタリよ夙くかかれ
(01年4月15日「タリ」11号)

八月の空に彫る

夏は光
水のきらめきに 心おどる 海辺
街路樹の影をささやかに描く 真昼の光
軍事境界線近くの畑で
青唐辛子もぐ農夫の背も 灼けているだろうか
視界いちめんによぎった 白い閃光
あの夏のできごとの再現だけは許すまい
光は自然のままがよい
ひとの暮らしを見守って 夜は眠りゆくあの光

夏は風
蝉の鳴き声が肌を洗う 朝のひととき
幼な児の額の汗をやさしくぬぐう 昼下がりの風
ピョンヤン空港傍の雑木林で
巣をかけたこうのとりも かすかに揺れているだろうか
轟き 突っ走り あらゆるものをなぎ倒した
あの日の爆風が 再び駆けていいものか
風は自然のままがよい
時に風雪厳しくとも 春は雪を溶かすあの風

ひとのいのちが 土偶に 炭に 灰になっていった八月
巨いなる業火に ふるさとは 焼け失せた八月

アフガニスタンも イラクも インドも パキスタンも
朝鮮も 中国も わが街 わが山河も
きのうに続く今日のひとひの営みが
光と風に包まれて 明日もあり続けるようにと
八月の空に向かって 私は願いを彫りつける
(02年8月15日「タリ」15号)

[朝鮮新報 2004.6.14]