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本の紹介 平和と平等をあきらめない

 戦争と差別の時代をどう生きるか。いま日本を支配する「空気」と「勢い」の本質を見抜く、時代を駆ける哲学者・高橋哲哉さんとジャーナリスト・斎藤貴男さんの対談。

 高橋さんはいまをどうとらえているか。「暗闇の中でも、暗い時代の中でも、それに抗して考えたり、声をあげたりした人がこれまでもたくさんいたのです。ぼくらの前には暗闇が広がってきているけれど、ここから始める」と。

 一方の斎藤さん。経済への視線から、教育や生活全般に浸透する新自由主義の本質をえぐり出したいま最も旬の人である。

 そんな二人の時代認識が、いまの日本の戦争肯定の底流を鋭く抉りだしていく。「時代は変わった。いまや、平和と平等という価値は建前としてさえ尊重されず、逆に、冷笑や公然たる攻撃の対象となっている始末だ。戦争肯定と差別の上に居直る言説が解禁され、むしろ『普通の』人々の喝采を浴びている。平和と平等が『根底から切り崩される』とは、そういう意味である」(高橋さん)

 「貧すれば鈍する。要は人件費の安い海外への製造拠点の移転が奏効し、史上空前の高収益を計上するグローバル企業の反映の陰で、一方的な犠牲を強いられ、食うために上司や行政などの強者に媚び、しがみつく日々の鬱屈、自己嫌悪を、より弱い立場の人間への差別や蔑みで晴らそうとする浅ましい心性がある。プラス、9.11事件を契機に肥大化した、発展途上国の犠牲と裏腹の関係で成立している経済大国の国民としての贖罪意識および歪んだ被害者感情。それらが朝鮮民主主義人民共和国による日本人拉致事件の際には金正日将軍というよりは朝鮮民族一般に向けられ、今回は人質に牙を剥いた」(斎藤さん)

 メディア批判も実に有益だ。イラク戦争への日独政府の態度の違うのはなぜか。ドイツは参戦を拒否し、日本は平和だろうと戦争だろうと米国の後に従う。

 「アジアで最初に近代化した日本は、つねに欧米列強に頭を撫でられながらやってきた。日露戦争後百年、また、同じようなことをしているという気がします。ルーズベルト大統領に許してもらって韓国を併合した。いまも、アメリカに従うことでアジアでのプレゼンスを認めてもらう。軽蔑されるし、憎まれます」(斎藤さん)状況なのだから。

 人はなぜ、知識を求めるのか、なぜ、社会について知ろうとするのかと考えて、結局それは「騙されたくないから」じゃないか、だまされたくなかったら、本当のことを知る必要がある、と高橋さんは指摘するが、全く同感する。「だまされない」ための武器となる書。(高橋哲哉、斎藤貴男著)(粉)

[朝鮮新報 2004.7.5]