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〈本の紹介〉 マサコの戦争

 キラキラ光る長良川のウロコ模様の川面に、「国民学校1年生」のマサコ、こませな銃後の「少国民」マサコ、GHQ占領下の清楚可憐の「演劇少女」マサコが次々に映る、そんな情景がページをめくりながら浮かんできた。

 本書は、今期をもって参議院議員を引退した大脇雅子さんが、生まれてから17年間の「戦争の時代」を、「岐阜の田舎に住んでいた少女の眼」を通して丹念に語りかけたもので、少女版『少年H』とも高く評されている。

 著者は、「あとがき」で、本を書く動機になった2003年6月4日の参議院憲法調査会公聴会でのショッキングなできごとについて触れている。その公聴会で、「新しい憲法を作る国民大会」で首席となった作文を読み上げて「戦争への備え」を主張した駒沢女子大学の学生は、野党の女性議員から「いまから60数年前の戦争体験について、当時大人であった方からお話を聞いていらっしゃるでしょうか?」と聞かれたとき、あっさりとひとこと、「聞いておりません」と答えたという。それで大脇さんは、いま、そこにある「戦争という日常」を若い人たち、子どもたちや孫たちを戦争に行かせたくないと願っているお母さんやお父さんに、ぜひ読んでいただきたいと、本を書いたのである。

 大脇さんは、森訪朝団(1997年)、村山訪朝団(1999年)で平壌を訪れ、朝鮮問題の平和的解決、朝・日関係正常化にも力を尽くしている。

 彼女の活動の原点、平和への痛切な思い、自らの心と体に刻まれた記憶や風景、愛する家族の笑いと涙が生きいきと、そして細やかに、流麗な文章で書き綴られている。

 読者は、きっとマサコと一緒に、金華山や長良川、関川を眼にし、「朝鮮人、朝鮮人」といわれ、いつもひとりぼっちだった「文ちゃん」にも会い、無この人々が戦争にからめとられていく体験を共有することができよう。大脇さんは、福祉と女性の労働条件の改善にも熱心に取り組んできた。それはマサコを限りなく愛し、育てた教師であった母と母方の祖母など、不幸な時代にいちばん苦労した多くの女性たちへの思いからなのかも知れない。

 東京裁判の記事を、父はマサコに読みきかせて、言った。

 「戦争はだちゃかん。人はそれぞれ人生を力強く歩いとるつもりでも、目に見えん大きな力で、思わぬ方向に押し流されていく。雅子が大きくなったら、この裁判について、いつか考えるようになるだろう」(大脇雅子著)(総聯中央本部参事、金明守)

[朝鮮新報 2004.7.21]