top_rogo.gif (16396 bytes)

〈本の紹介〉 「山河香る」

 「時調」は朝鮮の短歌である。移り変わる自然の豊かさと人生の喜怒哀楽を重ね合わせ、情感豊かに歌いあげる定型詩はまた日本の短歌でもある。

 本書には植民地時代の朝鮮で生まれ、15歳までその地で馥郁たる朝鮮文化の香りを全身に浴びながら育った著者の朝鮮への愛情が満ちあふれている。著者にとっては、本書は「私の韓国に対するラブレター」なのである。

 しかし、日本の朝鮮侵略によって、その愛情もまた複雑である。「かの地で育った私は、韓国を故郷と思っているが、悲しいかな当時の韓国は植民地であり、その植民地時代は韓国、朝鮮の人々に日本は辛く悲しい思いを長くさせてきた。それを思うと、韓国を故郷と呼ぶことは許されないのかもしれない。しかし十五歳までを過ごした、かの地の山河によって今の自分が形成されたことを思うと、手放しで懐かしい」。

 日本ではいまだよく知られていない伝統的な朝鮮の文芸、とくに時調についての優れた紹介書となっている。時調は、高麗時代には短歌といわれていて、朝鮮朝の16世紀から17世紀にかけてが最高潮の時代であったといわれ、両班階級の「唱の文学」として伝承されてきた。歴史的なエピソードも満載で、朝・日文化交流の様々な足跡もおもしろい。(廣岡富美著)

[朝鮮新報 2004.7.28]