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〈本の紹介〉 朝鮮経済論序説

 著者申熙九氏は、学部から博士の全課程を東北大学で過ごし、この間に世界経済論(レーニンの帝国主義論)を専攻した。卒業後、学問探究の場を朝鮮問題研究所に移した彼は、朝鮮経済論の研究を本格的に開始することになる。本書は、かれが数十年にわたって探究した経済理論と実証分析の集大成である。

 本書の概要を目次に代替させて紹介すると以下の通りである。第1編 朝鮮経済の基本構造と「戦時体制」(序説「50年体制」に関する問題提起/1章 解放直後期の経済再編/2章 「戦時プロ独裁」と経済編成/3章 「停戦」と「50年体制」/4章 「6.15共同宣言」と「新経済戦略」)第2編 附論―韓国工業化と財閥資本(序説 解放直後期から停戦までの経済概観/1章 援助と土着資本育成/2章 外資導入と財閥資本/3章 「70年代高度成長政策」と財閥資本)。目次では、本書の内容は2つに編成されているが、第2編の南朝鮮は附論であり、メインは第1編の朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)におかれている。

 共和国経済分析における著者のユニークな点は、「50年体制」という概念を導き出し、これを共和国経済の原基形態として捉えていることである。その内容は@政治権力における「戦時プロレタリア独裁」の確立ならびにA経済構造における「戦時中央集権型計画経済」の2つである。そして、これが朝鮮戦争のあいだに構築されたというのが著者の主張である。

 読者は、こんにち共和国の政策当局が堅持している社会主義の原則問題との関連で著者の主張を読まれることを提案したい。共和国が主張する社会主義の原則とは、「集団主義」に集約され、その内容は@国家の中央執権的指導、A計画的管理および運営、B社会主義所有の3つである。そして、これは経済改革を推進するうえで堅持すべき揺らぐことのない原則であるとしている。著者の「50年体制」との関連で見るなら、@とAの問題がこれに直結する。本書は、こんにち共和国が堅持する社会主義原則の起源がどこにあり、そしてそれがどのような時代背景のもとで形成されていったのかを把握するための手がかりを与えてくれているといえる。もちろん、本書の意義はこれだけにとどまらず、使われている資料とその展開方法などから、日本の共和国経済研究のレベル向上に貢献しうるものといえる。(申熙九著)(文浩一、一橋大学経済研究所COE研究員)

[朝鮮新報 2004.9.6]