〈本の紹介〉 北朝鮮の人びとと人道支援 |
拉致事件後の朝・日関係の状況の悪化は、目を覆うばかりだった。民族学校に通う子どもたちへの迫害が続き、チマ・チョゴリ切り裂き事件も相次いだ。各地の民族学校には脅迫電話や脅迫状が送りつけられ、総聯会館が白昼、銃撃される最悪の事態も生まれた。 このような状況下で人は、人間としての生き方を問われる。状況に流されるのか、抗うのかと。人は人を愛するのか、憎むのか。あるいは、平和を望むのか、戦争に向かうのかと。 本書はそうした北東アジアに冷戦を長引かせようとする悪意に満ちた北風が吹き荒れる最悪の状況に立ち向かった市民たちの精神の記録であり、行動の記録である。 本書の主なテーマはタイトルにある通り「市民がつくる共生社会、平和文化−北朝鮮の人びとと人道支援」である。この間の朝鮮への人道支援についてのNGOのさまざまな経験や提言が真摯な目で報告されており、ページをめくっていて何度も目頭が熱くなる。 例えば数限りなく訪朝し「KOREAこどもキャンペーン」を展開してきた筒井由紀子さんの豊かな体験記−「北朝鮮人道支援の『難しさ』と『対話』」。 筒井さんはこう書き出している。「困難な状況にある子どもたちへの人道支援−普通、反対されることはまずない。しかし、北朝鮮への人道支援となると話は別である」と。その難しさは、国際政治の問題であり、両国間の歴史を経た国民感情の問題、北朝鮮側のシステムの問題、日本側の反北朝鮮のキャンペーンなどのいろいろな「難しさ」であると筒井さんは指摘する。それらが重なりあって「私たちの前に大きく立ちはだかっているが、問題解決のための『対話』すべてが非難される今の状態が一番の『難しさ』かもしれない」と慨嘆する。 日本では今まで北朝鮮のことなど考えたこともなかったような人が、テレビや新聞、週刊誌等で情報を得て、「一億総北朝鮮専門家」状態となっている。そして、みな、見てきたように「あんなひどい国はない」と話す。状況が悪いからこそ、人道支援が必要なのだと筒井さんは力説する。 「ほとんど交流が途絶えてしまっている現在、『対話』を重ねていくことが、不可欠なのである。…『対話』を重ねた人道支援は、相互理解の一助となり、緊張から平和的解決への流れをつくる土台となる。『対話』を放棄した時、私たちは北東アジアの平和、共生への過程を放棄したことになり、残るのは憎しみの連鎖のみである」と。 このほか本書に収録されている論文は@北朝鮮人道支援をめぐる日本のNGOの経験/金敬黙A国際協力型NGOの経験−世界の紛争と北東アジアの平和/熊岡路矢B南北コリアと日本のともだち展−人道支援NGOがすすめる交流/寺西澄子C過去を越えた多文化共生社会へ−在日朝鮮学校の存在と民族教育実践の意味/チョン・ビョンホD韓国の平和運動と平和教育/イ・ギボムE越境する平和教育―南北オリニオッケドンムに学ぶ/岩川直樹F「日朝首脳会談」と在日コリアン/金聖蘭などである。いずれも力作。 「寒風に抗して一歩一歩前進するのに、大変な苦労をしています。新しい北東アジアの産みの苦しみを一部の若い市民が背負い込んでいます。そのことにいままで関心を持ってこなかった多くの日本の市民も、ぜひ、この本を読んで考えてほしいと切に希望します」と本書のプロローグで武者小路公秀・元国連大学副学長が指摘する。心に響く訴えである。(日本国際ボランティアセンター(JVC)編)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2004.9.15] |