〈本の紹介〉 もしも憲法9条が変えられてしまったら |
本書はイラク戦争に派兵し、ひたすらブッシュの世界戦争に番犬のように従い、のめり込んでいく日本の現状を多面的に分析している。そのキーワードは日本国憲法であり、戦争放棄をうたった憲法9条である。 第1章「憲法って何だろう?」/第2章「もし、9条が変えられたら?/第3章「なんで改憲?」/第4章「9条を活かして世界で生きるには?」/第5章「憲法の力−私はこう思う」との構成の下、憲法を守る徹底的な視点を貫きながら、良質な護憲論を展開して読み応え十分。 興味を引くのは、文芸評論家、作家の加藤周一さんと辛淑玉さんの対談。 「日本人はなぜ怒らないのか」という辛さんの問いから始まった対談は、日本の体質、つまり、「アメリカ追随と北朝鮮脅威論」で、がぜん、熱を帯びてくる。加藤周一さんの論点はこうである。 「いま、憲法を変えたい人の多くは『よらば大樹の陰』、つまり、アメリカ追随が利益を最大にする道だと思っています。経済的にも、防衛問題としても、国際社会としても、国際社会での発言権が増すだろうという意味でも。…日本でもすでにできている軍産複合体制とアメリカのペンタコゴンの利益が微妙にからんで、日本の軍産複合体制の繁栄に向かおうということでしょう。それには九条をとってしまった方が都合がいい。そして、ソ連消滅後、適当な敵の候補者として使われているのが北朝鮮です。実際はアメリカ人の三分の二は『北朝鮮の脅威』を信じていないのではないですか。日本では改憲して自由に軍備拡張したい人たちはみな『北朝鮮の脅威』を言い立てる。そして、かなり多くの人がそれを信じている」 少数意見を持たず、体制順応主義がはびこり、学生にも、若手官僚にも、官僚から転身した政治家にも、最後まで続いていく、今の日本の救いがたい病根の深さを徹底的に追及していく加藤氏の鋭い指摘は圧巻。 明治維新まで溯って、強い人の顔色を見るくせ、日本の周りに味方をつくって、連合して安全をはかろうというのではなく、昔は英国、いまは米国という一番強い者につく。一番強い者にくっつくから孤立する、という日本の悪循環を抉る。 各分野の識者による護憲論が展開する中、少し物足りなさも残る。平和憲法が何ゆえに生まれたかを問う時に、何よりも押さえてほしいのは、日本の侵略戦争によって殺されたのは、アジアの2000万人の犠牲者であるという事実だ。この数を単なる加害、被害という言葉で済ましていいのだろうか。その夥しいアジアの血の犠牲を踏み台にして始まった敗戦後の日本は、未来永劫、再び戦争を繰り返してはならないのだ。その強い自覚と自責がない限り、戦争へと傾斜する動きを止めることはできない。(岩波書店)(朴日粉記者) [朝鮮新報 2004.9.27] |