「朝鮮名峰への旅」(6) 一面の草紅葉、朝焼け、夕焼けでまっ赤に染まる山 |
白頭山の紅葉は、思っていた以上に早くはじまる。8月下旬になると、山の稜線が心なしか明るく感じられる。稜線の岩石が乾くためか白っぽくなってくる。わずかばかりの養分を求めて斜面にこびりついていた草が、色づきはじめる。9月に入ると一面の草紅葉となる。とくに朝焼けや夕焼けの時、山はまっ赤に染まる。 この時期、空はいちだんと澄みわたり、はるか彼方まで見渡せる。日の出前、白頭山の稜線に立つ。今まで見ることのできなかったはるか遠くの台地が、くっきりと見える。南胞胎山の山々、そして西北方面に目を転じると、大陸の大地がどこまでもどこまでも大きく広がっている。大陸の山に登っているのだと、あらためて実感する。 草紅葉のはじまった天池湖畔を歩く。前方左手の小高い丘から、突然「キー、キー」と甲高い鳴き声が聞こえてきた。かつて何度も聞いたことのある懐かしい声だ。北海道の大雪山、そして、遠く北米のロッキー山脈でも聞いた。そっと丘に近寄る。丘の頂付近は大小の岩が折り重なっている。岩に近づき息を殺していると、岩の隙間から目のくりっとした小動物が顔を出し、しばらくじっとしている。ナキウサギだ。ナキウサギは決して私と眼をあわせない。カメラを出そうと体を動かすと、ふと岩穴の中に消えてしまった。が、あわてることはない。こちらがじっと待っていれば、いずれ岩山のどこからか顔を出す。案の定5分ほど待つと、別の岩穴から再び顔を出した。
ファインダー越しに見るナキウサギの姿は、とても小さく全長20pくらいか。ウサギのイメージと異なり、丸く小さな耳をしている。体色は茶色で、背がこげ茶色をしている。これで尾があればネズミに間違えられかねないところだが、尾がないためか、まことに愛くるしい。氷河時代の生き残りとして、この寒い白頭山に棲みついている。 私の姿に慣れたためか、しばらくすると盛んに活動をはじめた。冬眠しない彼らはこの時期、食料の草などをせっせと岩穴に運び込む。体の小さい彼らがひと冬を過ごすためには、膨大な量の食料が必要なのだろう。わき目もふらず運び続ける。ほかの季節であれば、私の存在をもっと気にして岩穴から出てはこないはずだが、今はそんなことを言っていられない様子だ。忙しそうにエサを運ぶ作業をやめようとしない。 大雪山で見かけたナキウサギは、ほとんどすべての個体に寄生虫がついていた。毛がところどころはげていて、みすぼらしい姿をしていた。しかしこの後、あちこちで出会った白頭山のナキウサギは、どれも艶やかな姿をしていた。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2004.10.1] |