top_rogo.gif (16396 bytes)

「朝鮮名峰への旅」(7) 大樹海の紅葉、一斉に黄金色に色づくカラマツ

 山の紅葉は新緑とは反対に、山頂から山麓へと下りてくる。9月は草紅葉やウラシマツツジなど、潅木による赤を基調とした紅葉が多いが、10月になると紅葉の主役は黄金色のカラマツ(落葉松)に取って変わられる。

落葉松 無頭峰(秋)

 白頭山を囲む山々は、大森林に覆われている。ある場所はアオモリトドマツやシラビソの濃紺の樹木、またある場所はダケカンバの美しい林、そして白頭山の玄関口である無頭峰周辺ではカラマツの大樹林が広がる。

 春から夏にかけてのカラマツは目立つ存在ではなく、林床に育つキバナシャクナゲやボタンキンバイなどの花々の方が人目をひく。秋が深まるにつれ、カラマツの細い葉は一斉に黄金色に黄葉する。黄金色の葉は太陽の光を受けて、微妙に色を変化させながら、きらきらと輝く。

火山層から出てきた枯木

 四季は春夏秋冬と毎年きちんと巡ってくるように思われているが、決してそうではない。芽吹きの春、花咲く夏、そして長く厳しい冬は必ず訪れるが、紅葉の秋だけは素通りしてしまうことが多い。台風による風雨や、降雪によって、葉が色づく前に落ちてしまうからだ。しかし他の木が紅葉しないときも、カラマツだけは黄葉する。

 約20年前、穂高岳の岳沢ヒュッテを訪れた時のことである。小屋の一番見晴らしのきく場所に、展望食堂が造られていた。食堂には、赤みを帯びた一枚板のカウンターがあった。上高地の美しい風景を肴に、ここで飲む生ビールは格別贅沢な味がした。

 このカウンターの板が気になって、小屋主の上條岳人氏に尋ねた。すると意外にもカラマツでできているという。カラマツといえば曲がったり割れたりと、あまり評判は芳しくない。すると上條氏は、それは人工林のカラマツだからだという。信州では、昔から天然のカラマツは「テンカラ」と呼ばれて、最高の内装材として使われているという。目からウロコが落ちる思いがした。

 無頭峰の山頂に立ち、白頭山方面を眺めると、その天然のカラマツが限りなく続いている。カラマツは黄金色に色づき、いまが黄葉のまっ盛りだ。

 無頭峰から白頭山へとなだらかな斜面を登る。登山道から離れ、火山礫の斜面に入る。草や小潅木しか育っていない砂漠のような斜面に、ところどころ枯れた木が顔をのぞかせている。約1000年前、白頭山が大爆発を起こし日本まで火山灰を降らせた時に埋没した森林の名残りだ。当時は約2300メートルの高度まで樹林に覆われていたという。枯木を眺めていると、山腹まで覆われていたというかつての大森林の姿が、まざまざと目に浮かんできた。(山岳カメラマン、岩橋崇至)

[朝鮮新報 2004.10.28]