動脈硬化とメタボリック症候群 医協在日同胞アンケート結果から |
狭心症、心筋梗塞、動脈硬化の危険因子 日本における死亡原因の上位を占める狭心症、心筋梗塞や脳梗塞は動脈硬化が主な原因で発症する。動脈硬化症というのは、栄養血管である動脈の中がつまってきて細くなったり、閉塞するためにおこるさまざまな病気をいう。動脈硬化発生には、不適切な食事、運動不足、喫煙習慣、休養不十分、大量の飲酒などといった生活習慣の乱れやストレスが密接にかかわっている。こういったことに起因する生活習慣病の中でも頻度が高くて重要なものには高血圧、コレステロールや中性脂肪の代謝異常である高脂血症、血糖値が高くなる糖尿病、肥満症などがある。これらは危険因子と呼ばれ、重複すると大変恐ろしい事態を招く。近年、肥満を背景として、共通の病態から生ずる危険因子が複数重なるメタボリック症候群(MS)という概念が、動脈硬化性疾患の危険因子として大きな注目をあびている。 現在、日常臨床における簡便な指標の組み合わせという観点から、米国コレステロール教育プログラムでうちだされたMS診断基準が国際的には受け入れられつつある。その診断基準を簡単にまとめると、腹部肥満、高トリグリセリド(中性脂肪)血症、低HDLコレステロール血症(血管にたまりにくい善玉コレステロールが少ない)、高血圧、高血糖(糖尿病)の5項目のうち3項目を併せ持つ症例をMSとしている。日本では腹囲を用いた肥満の定義として、内臓ではなく皮下脂肪が多いという女性の特徴を考慮して、男性85センチ以上、女性90センチ以上と定められている。 2004年8〜9月にかけて在日同胞を対象に、動脈硬化危険因子にかかわる質問をもうけアンケートを実施した。10代から70歳以上にかけて男性506人、女性324人の計830人から回答を得た。 体重指数を用いて肥満者の割合を算出し、日本人での統計と比較グラフ化したもの。肥満1〜4度の者が、在日同胞では合わせて21.8%で、日本人の23.3%とほぼ同じだった。 20歳以上の男性での喫煙率の比較である。各年代とも在日同胞、日本人間でほとんど差がなく、平均喫煙率も在日50.1%、日本人48.5%で同等であった。 女性に関しては、今回実施したアンケートでは在日同胞の喫煙率が目立って低く、全体でもたった1.9%。ちなみに日本人では14.0%。在日でこのような結果になったのは、回答者が少ないうえに若くて保守的な環境にある者が多かったからであろう。 20歳以上の男性におけるMS罹患率を、在日同胞と米国人で比較したもの。どちらも40代から急に増加しているが、在日は米国人に比べて約半分の比率で、全体でも在日11.5%、米国人24.0%となっている。ちなみに、今までの文献によると日本人は10.4〜11.3%、イタリア人は12.1%という報告があり、在日と同程度といえる。 女性の場合、今回のアンケート調査では20歳以上の315人中、MSと診断される者は一人もいなかった。諸文献の統計報告をみると、日本人は4.9〜6.8%と男性の約半分であるのに対し、米国人は23.4%、イタリア人は11.2%と男性をほんの少し下回る程度であった。 今回のアンケート結果からMSと診断された人は男女合わせて820人中58人だったが、表1にみられるように肥満を示す者の割合がきわめて高く、いかに肥満が重要な因子であるか、十分に窺い知れる。 他の動脈硬化危険因子を合併しているかどうかについても検討してみたが、高LDLコレステロール血症(血管にたまりやすい悪玉コレステロールが多い)の合併が24.1%、 喫煙は44.8%にみられた。MSにこれら他の危険因子が重複するということは、さらに動脈硬化性疾患の発症危険率が上ることを意味する。 MS例58例中、動脈硬化性疾患例は9人、15.5%で、のべ疾患数としては12人であった。狭心症、心筋梗塞に限定すると12.1%で、米国の文献で報告された11.8%という数字とよく一致している。一方、MSではない群における罹患率は3.4%でMS群の5分の1にすぎない。文献的には、年齢、性、喫煙で補正すると、MSは非MSに比較して2.1倍、虚血性心疾患発症の相対危険度が上昇すると日本で報告されている。 生活習慣病にならないためにふだん心がけていることは何か、聞いてみた。3分の1以上の人が、食事内容に気を配っていると答えた。それ以外では運動、ストレス解消と答えた人が多く、だいたい一般世間の行動と同様なように思われる。喫煙は動脈硬化性疾患のみならず、癌との強い関連が言われている。アルコールは食事と大いに関係してくる問題である。睡眠不足はストレスや疲労のもとであり、大きな課題といえるが、今回は関心を示したのは1人だけだった。 生活習慣病予防の今後の課題としては、学校保健の充実がとても大事になってくると考えられる。 生活習慣の適正化のためには、子供の頃から十分にそれを理解させ、生活指導をしていかなければならない。大人になってから急にあれこれ言われても、なかなか生活習慣を変えられるものではない。朝鮮初級学校の保健教科書も新たなものになったことだし、教育の現場でこの問題を論議実践していってほしいものである。(あさひ病院内科、金秀樹) [朝鮮新報 2004.12.23] |