大阪朝鮮高級学校ラグビー部、「花園」に新たな歴史刻む |
第83回全国高校ラグビー大会の2回戦が12月30日、東大阪市の近鉄花園ラグビー場で行われ、同大会初出場の大阪朝鮮高級学校(大阪府第1地区)は、Aシード校の正智深谷高校(埼玉県)に惜しくも24−40で敗れた(前半14−26)。28日の1回戦で砺波高校(富山県)を80−0の大差で圧勝し「花園」に新たな歴史を刻んだ同校は、同胞らの期待を背に晴れの舞台で闘志を見せた。試合には敗れたが、最後まであきらめずに前に前に向かって突き進む朝高選手の勇姿は、客席を埋めた約1万2000人の同胞、学生たちに感動と勇気を与え、また日本のラグビー関係者やファンたちにも「大阪に朝高あり」との印象を強く与えた。(文=千貴裕、韓昌健記者、写真=文光善記者) 「点差感じさせない好ゲーム」 大会2回戦からは強豪校であるシード校が登場するが、今年の全国高校選抜と関東大会を制し、今年の高校公式戦では無敗を誇る正智深谷と大阪朝高の1戦は、屈指のカードとなった。
「失うものはない。われわれはチャレンジャーだ。絶対走り負けしない。低いタックルで立ち向かおう」と確認し試合に臨んだ。 試合は朝高が前半2分、敵陣15m右ラインアウトからモールをドライブして先制トライを奪いリードした。しかし、その後反撃を受け7分、18分、20分、28分とトライを許し、朝高も3つのPGを成功させたものの前半は14−26で折り返した。 後半に入ると、相手の外国人留学生2人の突破を止められず2トライを許すものの、朝高もフィフティーン全員が一丸となり、最後まであきらめない粘りと闘志溢れるプレーで2トライを奪い、ほぼ互角の試合を展開。結果的には24−40と敗れたが、「点数差を感じさせない好ゲーム」(試合記録の戦評)を演じた。 同校の金信男監督は、「留学生2人を止めることが出来なかったのがすべて。まだまだ、力不足です」と敗因を語った後、「今日は多くの同胞のみならず、日本の人たちの声援を受けた。スポーツに国境はないと感じさせられた。正月を花園で迎えることができなかったことが心惜しいが、また来年、全国制覇できるチームを作りこの舞台に立ちたい」と力強く語った。 キャプテンの趙顕徳選手は、「自分たちの持っている全ての力を出しきったので悔いは残っていない。全国大会出場の資格すらなかったOB、先輩たちの分までやってきた。ぼくらの夢(全国制覇)を1、2年生たちに託したい」と述べた。 一方、正智深谷の寺廻健太主将は、「運動量も豊富で当たりも強かった。初戦ということもあったが僕らのラグビーができなかった」と感想を述べた。 一方、28日の1回戦で朝高は終始、砺波高校を圧倒。前後半それぞれ6トライ、5ゴールずつ奪う80−0で圧勝し、念願の「全国」1勝をあげた。 大会関係者によると、試合会場となった花園第1ラグビー場には2回戦では大会記録となる約1万5000人の観客が詰め掛けた。そのうち大阪府下を筆頭に各地から応援に駆けつけた同胞、生徒は約1万2000人を数えた。同校の1回戦の試合でも約8000人の同胞らが客席を埋め関係者らの話題をさらったが、この日も朝高の勝利を祈念し多くの同胞が駆けつけた。 全国制覇へ続く挑戦 全国大会初出場まで大阪朝高ラグビー部が費やした月日は31年。そのうち3分の2にあたる22年間は全国大会に出場する機会さえ与えられなかった。94年に朝鮮学校に門戸が開き、全国大会出場の機会を与えられたが、高校ラグビー界最激戦区と名高い大阪。予選の壁を越えるのに実に10年の月日を費やした。 階段を1段ずつ昇るかのように1歩ずつ前進してきた。まさに金監督がいつも口にする「無から有を作りあげてきた」。 大阪府代表を決める決勝戦4回目の挑戦で初めて勝ち取った今回の栄光。惜しくも大会2回戦で敗れ、高校ラガーマンたちが夢見る「正月を花園で迎える」ことは出来なかったが、大阪朝高ラグビー部は全国大会1勝の財産と優勝候補のAシード校を相手に点差以上の互角のゲームを演じた自信と経験を得た。この貴重な体験こそが今後、同校の飛躍をもたらす大きな要素となっていくであろう。 朝高にとって今大会は終わったが、明日からは新たな戦いが始まる。「今年の経験を次に生かしたい。必ず来年も花園に来る」(鄭貴弘、趙顕哲=2年生)。 今大会を経験した1、2年生は6人。1月3日から始動する新チームは28日、新人戦の初戦を迎える。全国制覇という目標に向けた朝高の挑戦は続く。 超満員のスタンド、熱い声援
通路にしゃがみこむ人が係員から注意を受けている。座席に座る客が立ち見客と視界をめぐってひと悶着している。メインスタンドに向かって右側の正智深谷応援サイドにも「大阪朝高」の旗を振る同胞が点在している。決勝戦でもこんなに入るかどうか。バックスタンドは文字どおりの超満員だ。 両校選手が入場する。朝高よりも体が一回り違うトンガ人選手が2人。 「うわあ…」 「大きいなあ…」 思わずため息が漏れる。だからといって負けるわけにはいかない。 「チョッター(いいぞ)!」 「チャルハラー(がんばれ)!」 声のかぎりに声援が飛ぶ。選手たちにもわかるのだろう。一瞬、グッと表情が引き締まる。主審の手がゆっくりとホイッスルにのびた。さあ、試合開始だ。 今日は気合いが違う。スタンドの熱気も最高潮。自分の声が選手に届くとみんな信じている。隣の深谷サイドに負けじとあらんかぎりの声をふりしぼる。 最初のトライは朝高だった。優勝候補の相手から奪った、開始早々の機先を制する見事なトライ。相手は選抜優勝チーム、失うものは何もない…そう思っていた矢先の出来事だった。(いける! 勝てるぞ!)そんな期待がスタンドを包む。 相手も黙ってはいない。トンガ人選手を中心にすぐ反撃に転じる。1人、2人と朝高の低いタックルが次々と深谷を襲う。深谷の足がつぶれるが早いか、朝高の肩がつぶれるが早いか。鈍い音がスタンドまで聞こえる。それでもなかなか止めきれない。 「チャバラ―(つかまえろ)!」 「マガラー(止めろ)!」 同胞たちの声援と悲鳴がスタンドを交差する。選手たちを鼓舞しようと懸命の応援が続く。取っては取られ、取られては取り返す白熱の好ゲーム。相手が自陣で反則を繰り返すたびに、「(PGを)狙えー!」と声が飛ぶ。キッカーの金圭補選手がきっちりと3点を積み重ねていく。決まるたびに「ええぞー! それでええねや!」と安堵が表情に現れる。前半を折り返して許したリードは12点。まだまだいける。 後半も深谷のパワーがたびたび朝高を圧倒する。それでもあきらめない。果敢に低く低くタックルを繰り返す。選手たちの闘志がスタンドにも伝わる。 「ガチッ!」 相手の突進を止めるたびに、「止めたー!」「やったー!」と歓声がわく。 やがて無情のノーサイド。グラウンドに崩れ落ちる朝高選手たち。 「ありがとうー!」 「よくがんばったぞ!」 「いいぞ! 朝高!」 拍手が鳴り止まない。あちこちから選手たちに言葉が投げかけられる。 「のびのびとプレーしていました。とにかくよくやった。あきらめなかった。きっと来年につながると思います。最後まで朝高のラグビーでした」と、尹譜成さん(23、98年に初の地方予選大阪大会決勝進出を果たした時の主将)は語っていた。 [朝鮮新報 2004.1.1] |