辰子姫伝承−朝鮮人労働者の悲憤映す |
秋も深まると行楽で賑わう田沢湖。かつてこの地に強制連行され、絶え間ない過酷な労働と虐待によって命を落とした多数の朝鮮人労働者らがいたことを想像する人がいるだろうか。 事実、田沢湖の辰子姫像や姫観音の一般的な伝承物語は「永遠の美をいつまでも保ちたいと願った辰子姫が泉の水をむさぼり飲んだところ、天地異変が起こり、紺碧の湖が出現し、辰子は竜に変身した」(観光パンフレット)などというもの。その湖神辰子姫像を見守るかのようにひっそりと立つ姫観音は、電源開発で全滅した魚族と辰子姫の霊を慰めるため1939年に建立されたと説明されてきた。 しかし、この伝承の陰で村人らが姫観音に託した真実−それはこの像が犠牲になった朝鮮人労働者らの慰霊碑として建立された−というものであった。その史実を探り当てたのは、地元の中学校の先生と生徒たちだった。夏休みの研究課題のため、生徒らは姫観音にまつわる伝承を村の古老らから聞きながら、歴史に隠された真実を発見したのだという。 すると39年に建立された姫観音の背景が分かってきた。日本は中日戦争勃発で全面的な中国侵略を開始した。この戦争を遂行させるために、日本各地に発電所やダムを建設していった。その一つが田沢湖を利用した生保内発電所工事だったということに生徒らは気づかされたのだ。 朝鮮人労働者だった彼らがいかに奴隷労働を強いられたかを生徒らは詳細に調べあげ、レポートに書いた。こうした過去を掘り起こそうとする市民の努力と歴史を隠蔽しようとする巨大な力。歴史も人々の記憶も抹消させてはならぬ。(粉) [朝鮮新報 2004.10.4] |