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新潟県知事への審査請求書 「万景峰92」号の岸壁使用条件は違法、不当

 既報のように、新潟県知事が昨年11月、「万景峰92」号の入港を拒否するため新たな条件を付したのと関連し、同号所有者代理人の床井茂弁護士が21日、泉田裕彦新潟県知事あてに審査請求書を提出した。その内容を紹介する。(表記は本紙の表記に合わせ、審査請求書の最初と最後の部分は省略)

 ▲審査請求の理由

 新潟県知事(以下、知事)は、大進船舶会社(以下、大進社)所有の船舶「万景峰92」号に対し2004年11月26日付で以下の条件を付して新潟港の岸壁使用許可処分(以下、本件条件処分)を行った。

(条件の内容)

 @平成17年1月1日以降に入港する際には、適正な保険契約を締結していること。
 A新潟港内においては、船舶の拡声機等から発せられる音量を社会通念上許容できる範囲内とすること。

 以上の条件は、「万景峰92」号を新潟港への入港を拒否するために付せられた条件であって、違法、不当なものであるから、取り消さなければならないものである。

 ▲本件条件処分は、日本国憲法及び国際法並び港湾法に違反する重大な違法、不当なものである。

 1−日本国憲法98条2項は、「日本国の締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と定めている。

 日本国もまた朝鮮民主主義人民共和国も加入している「海洋法に関する国際連合条約」(以下、条約)17条は、「すべての国の船舶は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、この条約に従うことを条件として、領海において無害交通権を有する」と定め、同18条は、「通行の意味」の一部として「内水に向かってもしくは内水から航行することまたは停泊地もしくは港湾施設に立ち入ること」を認めている。

 すべての船舶は、「沿岸国の平和、秩序または安全を害しない限り、無害とされ」(同19条1項)、その活動が制限される場合を、同条2項において、沿岸国の平和、秩序または安全を害するものを掲げ、その制限を厳密に規定している。

 すなわち「海運自由の原則」が国際ルールとなっており、従来から新潟港もまたこれに従い、入港船舶の国籍の制限はなく、どの国に対しても開かれている。

 これは、新潟県もまた認めるところであり、港湾管理者である新潟県新潟港湾事務所もまたこの意思を表明している。

 2−港湾法13条2号は「何人に対しても施設の利用その他港湾運営に関し、不平等な取り扱いをしてはならない」と定めており、「万景峰92」号に対してのみ、先に述べた条件を付して、不平等な取り扱いをしてはならないのは当然のことである。知事が「万景峰92」号に対し、かかる条件を付することは、憲法、国際法、港湾法に照らして許されないのは当然のことである。

 3−知事は、今まで「万景峰92」号の新潟港入港をなんらの条件をつけることなく、認めてきた。これは、上記「本条約」及び港湾法に従った正等な処置であった。しかるに今回法令に規定のない非常に曖昧な条件を付して、「万景峰92」号の入港を事実上制限する行為にでた。

 共和国船「万景峰92」号の入港出港を管理する権限は、日本国としての外交関係の処理にあたる国の事務であり、知事にはない。

 これは明らかに日本国憲法及び国際法並びに港湾法に違反する重大な違法行為と言わざるをえない。

 ▲本件条件処分は新潟県港湾管理条例(以下、条例)に違反する違法、不当なものである。

 1−本件条件処分は、以下のとおり条例に違反する。

 a 条例5条によれば、「知事は前条の規定による許可に港湾管理について必要な条件を付けることができる」と規定されている。

 条件を付することができる「4条1項」は、「港湾施設を使用しようとする者」「港湾施設以外の港湾施設を施設本来の使用目的以外の目的に使用しようとする者」は、知事の許可を受けなければならない、と規定し、(1)ないし(10)までの港湾施設を挙げている。

 本件条件許可は、(1)係留施設(岸壁)にかかわるものであるが、岸壁の管理について必要な限りにおいて、条件を付することができるものである。例えば、施設の能力を超える、あるいは岸壁に空きがないなどの状況下においては、拒否または待機を命じることは可能であろうが、本件のような条件を付することは許されない。

 b 本件条件は、岸壁の管理に必要な条件とは言えない。「管理」の目的は、岸壁が適切に使用されることにある。しかるに、付せられた「入港する際には、適正な保険契約を締結していること」「港内においては、船舶の拡声機等から発せられる音量を社会通念上許容できる範囲内とすること」の2条件は、いずれも岸壁の適切な管理とは無関係である。

 大進社の新潟代理店である富士運輸株式会社(以下、富士運輸)は、新潟県港湾管理条例施行規則(以下、規則)2条に定められた別記第1号様式に定められた事項を記載して平成16年11月19日新潟県新潟港湾事務所に提出した。

 その記載事項に漏れはなく、その記載事項すべてについて知事は適正と判断して許可したのである。にもかかわらず知事は条例上規定されていない上記2条件を付したのである。しかもこれまで数百回以上なされた許可に一度たりとも付されたことのない条件を今回初めて付した。これを違法、不当と言わずしてなんと言おうか。

 c そのうえ付された2条件の範囲がきわめて広く、条件と言える条件ではない。

 「適正な保険」とは何か、その範囲が全く示されていない。すべからく行政庁が付すべき条件は、その内容が明確で制限されていなければならないのは、法治国家として当然である。なぜならば、付せられた条件が曖昧模糊としているならば、条件を付せられた相手方が、その条件をどこまで達成してよいか全く不明であるからである。

 「社会通念上許容できる範囲内」の音量とは何か。

 条例には何らの記載がない。記載がないものを条件として付することはできない。常識的には、人が社会生活を送る場合障害となるような音量は、当然のことながら規制されなければならない。この音量規制は、その規制される場所に応じて変わるのもまた当然である。本件の場合においては、音量が港湾の適切な管理に反するものであるか否か、その音量が船舶の停泊に支障が生じるものであるか否かが問題となりうる。

 仮に過去において「万景峰92」号が音量を発したことがあったとしても、それは理由のないことではない。一部の反朝鮮民主主義人民共和国団体(以下、反共和国団体)が、「社会通念上許容できない範囲内」の大音量を発して、反朝鮮民主主義人民共和国と朝鮮人民を耐え難い誹謗中傷しその名誉を毀損したがために、その防衛策として音量を発したことがあるかも知れない。しかしそれは、反共和国団体の「社会通念上許容できない範囲内」の大音量を規制して制止すれば、「万景峰92」号が音量を発することはありえない。かかる反共和国団体の行動を規制することが、港湾の適切な管理につながるものであることを、知事は認識すべきである。条件うんぬんの問題以前の問題である。反共和国団体の「社会通念上許容できない範囲内」の大音量が、「表現の自由」の範囲内であるとすれば、「万景峰92」号の音量もまた「表現の自由」の範囲内であると言わざるをえない。

 ▲次に本件条件付処分は、在日朝鮮人が憲法上有している祖国往来の自由(再入国の自由)を奪うものである。

 在日朝鮮人は、日本国憲法22条及び「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下、B規約)に従い「再入国の自由」を有している。

 a 憲法22条1項は、何人にも居住、移転の自由を認めている。

 B規約(日本国は1979年6月6日に批准)12条2項、4項は次のとおり規定している。

 (2項)すべての者は、いずれの国(自国を含む)からも自由に離れることができる。

 (4項)何人も自国に戻る権利を恣意的に奪われない。

 この自国は、定住国をも意味すると考えられている。

 「万景峰92」号に乗下船する在日朝鮮人は、日本の朝鮮半島を植民地として支配の結果、強制連行により、あるいは職や土地などの生活手段を奪われやむなく来日した人々であり、ほかの外国人と異なり「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(以下、特例法)によりその居住権は、強固なものとなっている。

 特例法2条は、在日朝鮮人に「特別永住権」を保証し、9条により退去強制は制限され、10条により「再入国期間は5年」となっている。

 在日朝鮮人は出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)と特例法により上記の再入国許可を得て朝鮮民主主義人民共和国を訪問して定住国である日本に帰国するために乗船または下船するものである。もし「万景峰92」号が知事の付した違法、不当な条件により入港できないとすれば、この船舶に乗船しようとしているあるいは下船しようとしている在日朝鮮人は祖国訪問のための出入国を拒否されることとなる。その結果、日本である定住国への出入国における永住権、定住権は剥奪される結果を生じる。このような権利が知事にはないことは明白である。このような重大な結果を生じることまで知事は考慮したのか。

 これは明らかに法務省の許可を得た「再入国の権利」を奪うことになる。従って本件条件付処分は、憲法及びB規約、入管法、特例法に違反する違法な行為である。

 ▲結論

 よって、本件条件付処分の条件は、取り消されなければならない。

[朝鮮新報 2005.1.31]