〈夢・挑戦−在日スポーツ人〉 世界オリエンテーリング選手権に朝鮮代表として初出場 李敬史さん |
今年度の世界オリエンテーリング選手権大会が8月7〜14日、愛知県で開催される(アジアでは初)。同大会に朝鮮代表として出場するのが静岡大学・大学院2年の李敬史さん(24)だ。朝鮮代表選手が同大会に出場するのは初で、それが在日同胞だということに注目だ。「まず目標は世界選手権で各種目での予選通過。認知度も低くてマイナースポーツのイメージが強いけど、これから在日のオリエンテーリング選手を育成する普及活動にどんどん携わっていきたい」と熱く語る。 「オリエンテーリング」と聞くと、日本では誰もが一度は行ったことのある「レクリエーション」のイメージが強いのではないだろうか。しかし、その歴史は意外と古く、北欧で誕生して約100年になる。もともと市民が自然と楽しむことを目的として発達した。 世界選手権などに出場するトップ選手ともなると秒差を競うスリリングなスポーツに一変する。地図とコンパスを使って地図上に示された地点をすべて通過してゴールするまでの速さを競う。スプリント、ミドル、ロング、リレーの競技種目があり、ロングともなると約90分、15キロ以上の距離を走る。 北欧、ヨーロッパを中心に高い人気があり、世界選手権は持ち回りで毎年開催されている(03年以前は、2年に1回)。 「日本の競技人口は約5000人。ほとんどが大学から始めた人ばかり。僕も大学から始めた」 李さんは小、中、高と日本学校に通い、中学はサッカー、高校はバスケットボール部に所属。大学進学後もバスケ部に入ろうと思ったが、オリエンテーリングの体験会に参加して興味を持ったのが始まりだ。
「一つのモノにのめり込みやすい性格なんですよ。団体競技より、個人競技の方が合っているなあって」と自己分析する。 大学時代はオリエンテーリングの魅力にとりつかれた日々だったと振り返る。 「体力、地図を読む力、精神力が要求されるハードなスポーツ。自分で計画通りにレースが進むと何ともいえない達成感があってとても奥が深い。地図を見ながら一人で瞬時に問題を解決していくところに楽しさを覚えた。一種の『中毒』かもしれません」とその魅力を語る。 練習は週に5、6回。心肺機能を高めるためのロードワークや水泳トレーニング、筋力トレーニングも欠かさない。 李さんのオリエンテーリングに取り組む姿勢には、際立つものがあった。趣味的な感覚で取り組む人と本気で競技に挑む人との意識のギャップもあった。 「部の方向性で何度も部員同士で衝突したこともあった。でも、それがあって大会の好成績にもつながったと思う」 03年の大学3年時に、日本学生オリエンテーリング選手権大会のクラシック競技(個人)で6位入賞。これは静岡大男子では4年ぶりのことで、外国人のインカレ個人戦入賞は史上初となった。また、4年時には同大会リレー競技(団体)で5位入賞している。 オリエンテーリングの国家代表の資格は、どこの国のパスポートを持っているかによって決まる。 李さんは大学時代、「韓国」の臨時パスポートを取得して01年にハンガリー、02、04年に韓国に渡り、韓国代表としてジュニア大会(20歳以下)に参加した経歴を持つ。 領事館からは臨時パスポートではなく、国民登録後に韓国に行くよう催促されるが、「親が国民登録はしないってこだわっていたが、僕も同じ気持ちでした」。 04年6月、ポーランドに行く際とうとう韓国の臨時パスポートが取得できなくなった。そこで考えたのが、朝鮮民主主義人民共和国の正規のパスポートの取得だった。朝鮮のパスポートを取得後、ポーランドへ渡った。日本に戻り、今年の4月に国籍を「朝鮮」に切り替え現在に至る。 「もともとは一つの国だし、どちらも『コリア』。国籍に特別なこだわりはないです。朝鮮代表となったからには代表としての自覚はあるし、朝鮮の選手とも交流してみたい」 大学、大学院での専攻は情報学。研究は「在日の国籍」についてだ。それだけに、在日の国籍に対する知識や考えも深い。 大学院に進んだ理由も「オリエンテーリングをもっと続けたいということと、在日の国籍についての研究も深めたかったから」と話す。 世界への夢を大きくふくらませたのはヨーロッパでの経験。北欧の山々の景観を見ながら走る爽快感は何にも代えがたく、海外の選手らと競いあったことから「もっと上をめざしたい」という気持ちがふくらんだ。 夢はもちろん、世界選手権制覇だ。 「まだまだ夢の話ですけど、やるからには頂点をめざしたい」(金明c記者) [朝鮮新報 2005.7.28] |