top_rogo.gif (16396 bytes)

同胞法律・生活センター連続講座 高齢者福祉と介護保険制度

 NPO法人同胞法律・生活センター主催の連続講座「ズバリ解決! 在日コリアンの悩みあれこれ」の第4回講座が10日、同センター(東京都台東区)で開催された。今回のテーマは「高齢者福祉と権利擁護」。東京の練馬総合福祉事務所の折原英信さん(ソーシャルワーカー)が練馬区における高齢者福祉の概要と介護保険制度について解説した。在日同胞社会においても注目されている問題だけに、質疑応答も活発に行われ、さまざまな問題点が浮かび上がってきた。

同胞利用者も増加

講師の折原さん

 日本社会の高齢化とともに在日同胞社会も高齢化が進んでいる。同胞社会では、高齢者の割合が推計で14.3%になるという。

 そんな中、2000年から施行された介護保険制度に注目が集まっており、同胞高齢者のなかでも制度利用者は増えている。

 だが、まだまだ深く浸透しているとは言えない状況だ。さらに、言葉の壁や文化の違いなどで、日本の施設では満足なサービスを受けられないといった在日同胞特有の問題もある。年をとり、認知症などを抱えると朝鮮語しか話せなくなり、日本語でのコミュニケーションがとれなくなる同胞もいるという。

 このような状況を打開すべく、各地の総連本部、支部では、同胞高齢者を支援する活動が活発化しており、一世たちが安心して満足のいくサービスを受けられるよう同胞のための通所介護(デイサービス)や訪問介護のサービスも実施している。

 しかし、今年成立した改正介護保険法はさまざまな懸念材料を含んでおり、同胞への影響は避けられない。

改正のポイントと問題点

講座には、専門家や学生、活動家らが参加した

 改正のポイントの一つは、「予防重視型システムへの転換」(来年4月から)にある。現行の「要支援」と「要介護1」の一部は、「要支援1」と「要支援2」(仮称)に再編され、「新予防給付」が実施される。「要介護状態にならないようにする」との観点から、筋トレなどが実施され、例えば、訪問介護による家事援助は、「一緒に手助けしながら調理をする」「洗濯物を一緒にたたむ」ことになる。

 しかし、「本当に必要なサービスを受けられるのか」「筋トレなどを強要される可能性がある」と懸念する声もある。参加者からも、「予防給付の対象者があいまいでは」「元気な人への対応はどうか」といった声も聞かれた。

 ポイントの二つ目は「施設給付の見直し」(10月から施行)だ。これにより介護施設利用者の負担額が大きくなった。

 例えば、あるデイサービス施設が800円分の食事のサービスを実施していて、利用者負担400円、給付400円だったとする。これが改正によってすべて利用者負担になった。あるいは、利用者負担を抑えるために、施設側が人件費を抑えたり、給食を委託にしたりする。

 これらの改正により、小規模居宅介護施設などでは対象者が減り、財政難、経営難が起こりうる。

 その他に注目されるものは、「新たなサービス体系の確立」(来年4月から)だ。その中の「地域密着型サービスの創設」は、小規模(30人未満)の施設を多く作ることなどによって「より身近で馴染みの中で、地域の特性に応じた多様で柔軟なサービス提供が可能になる」というものだ。

 だが、同胞密集地域は全国でもまれで、ちらばって住んでいるケースがほとんどだ。したがって日本の施設やサービスを使うことにもなるが、同胞一世の中には、日本人のコミュニティに溶け込めない人が多いという。日本人ヘルパーとうまくいかない、食事が口に合わない、文化や習慣の違いがストレスを生むなどの問題は依然として根強い。

ネットワーク作りが重要

 同胞にとってもっとも心配な点は、特殊な歴史的経緯を持つわれわれ在日同胞への対応策が、制度にまったく反映されていないということだろう。

 折原さんも外国人を制度に結び付け、ネットワークに取り込んでいくことの必要性を指摘する。今後、介護サービスに結びついていない人(制度を知らない、あるいは申請できない人)をみつけることが行政の施策において重要だと語る。練馬区では、町会や自治会、老人クラブなどの「見守りネットワーク」や「地域支え合いネットワーク」の構築を進めていくという。

[朝鮮新報 2005.10.25]