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〈夢・挑戦−在日スポーツ人〉 マラソン同好会「ワン・コリアンズ」監督 金昌弘さん

 東京・新小岩地域の在日同胞マラソン愛好家たちの同好会「ワン・コリアンズ」(金容明総監督)。2000年7月に結成され、これまで各種市民マラソンに積極的に参加してきた。約1万5000人が参加し、毎年1月に開催されている恒例の青梅マラソン(10キロと30キロ)を完走するメンバーが多く在籍する。このチームを率いる監督の金昌弘さん(41)は、中級部2年から陸上を始めた。在日陸上競技協会副理事長で、朝鮮大学校陸上部コーチも務める。「在日社会の底辺からマラソンを普及させ、将来はオリンピック選手を育ててみたい」と夢を語る。

 「走り」には健康やダイエットのためのジョギング、本格的な競技のマラソンなどさまざまな形態がある。

 ジョギングは、1970年代に有酸素運動が健康におよぼす影響の重要性が強調されたことから米国で流行し、それが日本でもブームとなったエクササイズ。日本だけでなく、世界でも幅広い年齢層に親しまれているといっても過言ではない。

 しかし、「走り」続けることは、仕事を持つ社会人には難しいもの。在日同胞らに「(走ることで)得られる爽快感を知ってほしい」と金さんは思い続けてきた。

 「ワン・コリアンズ」結成のきっかけは、総連東京・江戸川支部新小岩分会のある集会での、金さんの発言だった。

 「みんなでマラソンやらないか」

 酒の勢いも手伝ってか、数人の同胞らが同意した。しっかりとした形になったのは、2000年7月だった。

さまざまなレースに参加してきたワン・コリアンズのメンバー

 チーム名は、歴史的な北南首脳の面談を通じて発表された「6.15北南共同宣言」の精神を受け継いでいくという意味から「ワン・コリアンズ」にした。

 最初は6、7人からのスタートだった。ゆっくりと、そして本格的な練習を重ねていった。

 「素人の集まりだけど、在日の仲間で共に走る喜び、達成感を分かち合ってきた」

 結成から5年間、約40レースに参加した。在日同胞の大会はもちろんのこと、江戸川マラソン、浦安ベイマラソン、流山ロードレース、サンスポマリンマラソン、青梅マラソンなど数々の大会に出場した。

 活動が活発化するとメンバーも徐々に増え、「ワン・コリアンズ」の名は他地域にも浸透していった。今は約30人が走りを楽しむようになった。

毎年2月、東京で行われる東日本在日朝鮮人新春駅伝大会での金さん

 「自分はただ、マラソンを同胞らに普及していきたいという気持ちでやってきた。そして、地域同胞が集い一つのことに熱中する過程できずながさらに深まっていくと思う」

 金さんのとっておきのエピソード−。青梅マラソンに出場したあるメンバーが完走、ゴールするアボジの姿を見てその子どもが感動して泣き出したという。

 「マラソンは無言の世界だけど、言葉なしで感動を伝えられるすばらしいスポーツ。その子の涙は、長い距離を走りぬくため熱心に練習を重ねてきたアボジの姿を知っていたからでしょう」

 金さんはさらに続けた。「タイムは早くなくてもいい。それぞれ個人のペースに合わせた走り方があるから。とにかく完走してみんなでおいしい酒を飲んで、楽しくやろうって。これに尽きる」。

 東京朝鮮第5初中の中2から陸上を始めた。それまではサッカー、バレーボール、柔道などを経験した。

 当時、在日朝鮮学生中央体育大会の各種目の予選は激戦を極めた。どの種目も予選を突破できず、取りあえず、大会参加のためにみんなで出てみようと始めたのが陸上だった。

 「走る喜びを覚え、がんばれば結果を出せると思った」

 朝高、朝大でも陸上部に所属し主将を務めた。

 社会に出ても走ることはやめなかった。結婚後、長男、娘2人の子どもを抱えるアボジとなった今も、毎朝4時半に起床して10キロの距離を走っている。

 「今、自分から走ることを取ったらどうなるんだろうって。考えるだけ恐ろしい(笑)」

 走り続ける理由−それは「達成」という二文字にある。

 「自信、自慢、期待、挫折…走っているといろんなことが見えてくる。そしてゴールした時の何とも言えない達成感が、自分が前向きに走り続ける『道=人生』だと」

 在日陸上競技協会副理事長、東京体協副理事長の金さんは、一方で日本陸上競技連盟A級公認審判員でもある。日本の陸上関係者らとの親交も厚い。

 朝高が全国大会に出場できなかった当時、そうした人脈を生かしさまざまな人たちに掛け合って実現を働きかけた。「インターハイに出られなかった悔しい思いを、今の子たちに味わわせたくなかった」。

 また、朝大陸上部コーチでもある金さんは、将来オリンピックに出る選手を育てみたいと夢を語る。

 現在の心境について「とにかく、一生続けようと心に決めた陸上をまっとうできていることが一番の誇り。私にとっては、オリンピックの1位よりも価値のあることだと自負している」

 「ワン・コリアンズ」には、新小岩分会の同胞らがたくさん名を連ねるが、その活動が分会の発展にもつながればと語る。

 「『走り』がみんなの頭に定着すればいい。ユニフォームや靴を自分たちで買って、じわじわと熱くなっている姿を見るととてもうれしくなる」

 「生活の中にマラソンを普及していきたい」との原点となっている「ワン・コリアンズ」は、新小岩地域から全国へと徐々に輪を広げている。(金明c記者)

[朝鮮新報 2005.11.24]