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日弁連勧告書−1− 「治安維持法」人権救済申立事件

 日本弁護士連合会は2月2日、日本植民地時代に「治安維持法」違反で有罪判決を受けた兵庫在住の徐元洙さん(80)に、損害賠償をはじめとする適切な措置を講じるよう勧告した。2001年3月28日、朝鮮人強制連行真相調査団の洪祥進事務局長が徐さんの代理人となって兵庫県弁護士会に人権救済申し立てを行っていた。徐さんは植民地時代、朝鮮で朝鮮人差別の実情を書いた手紙を親友に送り、日本国内で朝鮮独立の必要性などについて発言したことで「治安維持法」違反で有罪判決(懲役2年、執行猶予3年)を受けた。勧告書は有罪判決について、「申立人の思想、良心の自由、表現の自由の侵害であり、それにより申立人は耐えがたい肉体的、精神的苦痛を被った」として、国に対して、人権侵害行為を謝罪し、肉体的、精神的被害回復のため補償を含めた適切な措置を講じるよう求めている。今号より勧告書の内容を紹介する。

 第1 結論

 国に対し、下記のとおり勧告することが相当である。

 記

 申立人が、朝鮮における朝鮮人差別の実情を書いた手紙を友人宛に送り、朝鮮独立の必要性等を日本国内で発言したなどとして治安維持法違反を理由に検挙され有罪判決(懲役2年、執行猶予3年)を受けたことは、申立人の思想、良心の自由、表現の自由の侵害であり、それにより申立人は耐え難い肉体的、精神的苦痛を被った。

 したがって、国は、申立人に対し、この人権侵害行為を謝罪し、身体を拘束され処罰されたことによる申立人の肉体的、精神的被害の回復のため補償を含めた適切な措置を講じるべきである。

 第2 人権救済申立の概要

 1 申立の趣旨

 日本政府に対し、申立人が治安維持法により逮捕、勾留、処罰されたことに関して、次の措置を執るよう勧告を求める。

 (1)事実の検証と真相の全面的公開
 (2)事実の公的な認定と責任の受諾を含む謝罪、特にその根源となった朝鮮植民地統治の違法性と責任を明確に認めること
 (3)被害者の肉体的及び精神的被害に対する謝罪と賠償
 (4)教育のカリキュラムと教科書に他民族に対する抑圧と治安維持法による弾圧に関する正確な記録を含めること、またその根源となった朝鮮植民地統治の違法性と責任を教科書に示すこと
 (5)朝鮮半島及び日本国内でこの法律により逮捕、拷問され、既に亡くなった被害者に対し、追悼し、敬意を表明すること

 2 申立の理由

 (1)事実の概要

 ア 申立人は、1924年10月17日に朝鮮で生まれたが、1933年(当時8歳)、父を訪ねるために母とともに渡日した。1943年2月、日本の学校を卒業後、ソウルの朝鮮総督府官房文書課に就職した。そこで、日本の植民地支配下での差別を実感し、日本に在住していた中学時代の同級生金圭元に、朝鮮に来て体験した耐えられない差別の状況を書き、何とかして我々が立ち上がるべきではないか、と偽らない心情を記した手紙を送った。

 イ その後、日本でひそかに民族独立運動をしていた金圭元が治安維持法違反で逮捕された。金圭元の逮捕に身の不安を感じた申立人は、兵庫県西宮市の両親のもとに戻るが、1944年8月、治安維持法違反の容疑で逮捕された。

 ウ 申立人は、西宮警察署の独房に1ヶ月間留置された後、神戸刑務所に送られた。1945年2月、治安維持法違反を理由に懲役2年、執行猶予3年の刑が下された。

 (2)法的概要

 ア 無効な日韓併合を前提とした治安維持法の適用は違法である。

 1905年、日本は、乙巳条約(韓国保護条約、第2次日韓協約)によって朝鮮の外交権を奪い、朝鮮総督府を設置し、朝鮮の主権を剥(はく)奪した。そして、1910年には韓国併合条約が結ばれ、朝鮮は完全に日本の植民地となった。

 しかし、乙巳条約は、韓国皇帝及びその閣僚に対する強制の下に締結されたものである。それゆえ、乙巳条約は無効であり、同条約を前提として締結された韓国併合条約も無効である。

 したがって、韓国併合条約を前提として日本の国内法である治安維持法に基づき申立人を逮捕したことも違法、無効である。

 イ 「人道に対する罪」違反として違法である。

 ニュルンベルク国際軍事裁判所条例、極東軍事裁判所条例は、「人道に対する罪」について「殺戮(りく)、せん滅、奴隷的虐使、追放その他の非人道的行為、若しくは政治的又は人種的理由に基づく迫害行為であって、犯行地の国内法違反たると否とを問わず、本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として又はこれに関連してなされたるもの。」と定義している。「人道に対する罪」は、戦前、戦中において国際慣習法ないし国際公序として成立していた。

 治安維持法に基づく逮捕、勾留は、「政治的…理由に基づく迫害行為」であり、「人道に対する罪」違反であり違法である。

 ウ なお、「国家無答責」及び「時効、除斥」は適用されず、また、国際法上個人の損害賠償請求権は認められる。

 (3)日本政府の被害回復措置

 「治安維持法」は重大な人権侵害に該当するから、加害国である日本国は、「違反行為を防止する義務、違反行為を調査する義務、違反行為者に対し適切な手段をとる義務、被害者に救済を提供する義務」(国連人権小委員会「人権と基本的自由の重大な侵害を受けた被害者の原状回復、賠償及びリハビリを求める権利」特別報告者ファン・ボーベン『最終報告』)を履行しなければならない。

 以上の通りであるので、申立の趣旨記載の処置を求める。(つづく)

[朝鮮新報 2005.3.1]