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「乙巳5条約」強制から100年 -下- 「保護国化」、米国の支援

 「乙巳5条約」は、武力を背景に強制された条約であるばかりではなく、条約自体が当然ふむべき手続きと形式を具備していない欠格の条約であるために不法であり、法的効力をもつことはできない。

 伊藤は信任状をもって外交問題にあたる特命全権大使の資格をもっていない。にもかかわらず、最高権力者の高宗に面とむかって脅迫し「条約」の承認を迫った。さらに各大臣に「遅延を許さず」と即座の返答を強要し、参政大臣が憲兵に強制連行されて主宰者のいない大臣会議で不法にも多数決で「条約」の成立をねつ造した。

 別室に連行された参政大臣は肉体的苦痛をうけていた。林は「冷水をかけてやれ」と憲兵に指示。調印段階になっても現れない参政大臣の安否をきづかい不安にかられている大臣たちに伊藤は「殺サレタノダロウ」と言い放っている(「韓末外交秘話」)。

 国家を代表する個人に肉体的、精神的脅迫または恐喝で強要した条約は合法性をもちえず、無効であるとするのは、19世紀には国際的に定着した原則である。

 「乙巳5条約」が強制された直後、フランスのパリ大学法学部講師フランシス・レイは、論文「大韓帝国の国際法的地位」で暴力によるこの「条約」は国際法的に無効であると指摘した。

 1927年、米国の国際法学会は国際条約法制定にかんする基礎研究をハーバード大学法学部に委嘱したが、1935年に提出された報告書は「乙巳5条約」は相手国代表に強制したもので、効力を発生できない条約の4つの歴史的実例の一つであるとした。

 「乙巳5条約」が不法であり無効である理由は、こればかりではない。この「条約」では国家主権者の署名、批准、国璽捺印、全権代表にたいする信任状の発給など正常な国家間の締結で当然備わっているべき形式と手続きが全く無視されているからである。

 高宗は「条約」に反対した。それゆえ「条約」に署名した朴斉純は皇帝の信任状をもたず、条約締結の全権大使の資格のないまま単に職務名にすぎない外部大臣としてのみ署名せざるをえなかった。

 日本側の林権助もまた信任状がなかった。当時の日本外務省の信任状発給台帳には林の名前がない。「条約」の署名欄にある「特命全権公使」はソウル駐在の外交官としての林の職務名であって、条約締結に必要な信任状をもった全権大使ではないのである。

 一国の命運を左右する重要な条約に、朴斉純も林権助も国家を代表する全権の資格をもたないで調印したのである。

 しかも外部大臣の官印はかねて監視していた朴斉純の官邸から外交官補沼野に盗ませたものを「条約」に捺印している。

 上海で発行されるチャイナ・ガゼット紙は、11月23日付けでこれら日本の不法、不正な「条約」強要を暴露した。ソウルと上海の手先機関からこの記事は直ちに本省に報告されたが、日本政府は一言半句の反論も修正要求もしていない。

 この「条約」が成立するには必須条件として最高主権者高宗の批准がなければならない。しかし、「乙巳5条約」にはこれもなかった。

 1878年から1911年までの期間、日本政府は外国との条約、協定を56件むすんでいるが明らかに行政的なものを除いては、日本もみな全権委任状と批准書発給の手続きをとっている。

 しかるに露日戦争以後、日本が朝鮮に強要した一連の「条約」「協定」だけはこうした正常な手続きをとらず、全権委任状も批准もなしにすべて略式にいそいで処理された。

 日本帝国主義も「乙巳5条約」のこの致命的な欠陥を知っていた。日本は李完用をあやつって臨終の間際にある高宗にまで執ように署名、批准をせまり結局失敗したが、これは欠格条約の実態をなんとしても覆いかくすためであった。

 露日戦争中に日本が暴力でおしつけた「条約」「協定」は、すべて欠格であり、当初から不法、無効であるのは厳然たる事実である。これにたいしては弁解の余地はない。

 日本当局が、これらの「条約」は日本が敗戦したために無効になったのであって、それまでは有効であったと主張するのは、日本帝国主義の暴虐な朝鮮支配を正当化する強弁である。

「タフト・桂協定」

 「乙巳5条約」が強制される4カ月前の1905年7月27日「タフト・桂秘密協定」が結ばれたが、朝鮮を保護国化するにあたって日本は米国の大きな支援をうけた。

 米国の陸軍長官タフトと日本首相桂太郎との間で合意されたこの秘密協定は、日本が米国の植民地となったフイリピンを侵攻しないかわりに、米国は日本の朝鮮保護国化を認めるという内容であった。

 米国が日本と「秘密協定」を結んだことは朝鮮王朝にたいする背信行為であった。朝鮮王朝政府と米国は1882年5月22日、「朝米条約」を結んでいるが、その第1条には朝鮮有事の際には米国は必ず援助(必須相助 善為調処)することが明記されている。

 米国に幻想をいだく高宗が日本の「乙巳5条約」の強要にたいしいくら「援助」を要請しても、米国が決して応じなかったのは、米国がすでに日本による朝鮮の保護国化を認める秘密協定を結んでいたからである。

 表面では「援助」を口にしながら、裏では他国の主権を俎上にのせて日本と秘密裏に強盗の取引をしている卑劣な背信行為は、米帝国主義の本質がどのようなものであるかを暴露している。

 日本が「乙巳5条約」を強制して100年にあたる今年、先ほどの6者会談にもとづいて朝・日政府間の協議が再開されるが、ここでは当然過去の清算問題が討議の中心になるべきであろう。(白宗元、朝鮮民主主義人民共和国歴史学博士)

[朝鮮新報 2005.11.14]