「朝鮮名峰への旅」(9) 白頭山からの日の出は圧巻、地平線から昇る太陽は神々しい |
年が明けて1月になると、白頭山の装いはさらに厳しいものとなる。山麓でも気温がマイナス10度以上になることはまれである。 上空から眺める白頭山は名前のとおり、まっ白に輝いている。白頭山の白さは、まわりを取り囲んでいる黒々とした針葉樹林の大樹海によって、いちだんと引き立てられている。森林は平原を埋めつくすように果てしなく広がっている。
我々がベースとしたペゲボンホテルは、大樹海の一角にある。樹林が風を防いでくれるため、マイナス10度ぐらいの気温であれば、風さえなければそれほど寒さを感じない。部屋は床暖房されている。ここに来て初めてオンドルを体験したが、その暖かさは格別である。熱い床から遠赤外線が出て暖められる。床に直接寝ても上に薄いカバーをかけただけで、ポカポカと体が暖まる。コタツなどとは違い、とても活動的な空間だ。さすが寒さの厳しい大陸ならではの暖房である。 しかし山麓を離れて白頭山に向かうと、このぬくぬくとした暖かさとは無縁の世界となる。ホテルから車で行ける無頭峰宿舎より先は、歩くことになる。樹林帯の雪の深い所は、スキーが有効である。踏み跡ひとつないゆるやかなスロープを登って行く。上空には紺碧の空が広がる。サングラスをした眼には、さらに深みを増した濃さとなり、昼間なのに星が見えそうなほどである。 冬の白頭山は晴れることが多い。そんなとき日本の山では大雪が降っている。強い冬型ともなると、暖かい日本海から大量の水蒸気があがり、それが大雪を降らせるからである。しかし晴れるといっても、白頭山での晴れ方は日本では想像できないほど凄まじいものである。 烈風が吹きすさぶ森林帯の上に出ると、気温は日中でもマイナス20度から暖かくなることはまれである。烈風のため、体感温度はマイナス40〜50度となる。6900メートルあるヒマラヤでさえ経験したことのない強烈な寒さだ。風もすごい。小石がビュンビュン飛んでくる。少しでも皮膚が出ていると、容赦なく小石が当たり思わず悲鳴をあげそうになる。目出帽をかぶりゴーグルを付けて歩くわけだが、一日歩くとゴーグルの表面に無数の細かなキズがつき、物が見えにくくなる。 上空から眺めると美しい縞模様が見えるが、冬にこの場所を歩くのは至難の業だ。縞の一つひとつが1〜2メートルの段々になっている。これは強風で飛ばされた火山性の小岩が吹きだまったもので、足を踏み込むとぐずぐず崩れる。乗り越すのにとてつもない労力と時間が必要となる。まるで大海の大波の上を歩いているようだ。その苦労も山頂から日の出を見たときに一気に報われた。白頭山からの日の出は圧巻である。地平線から昇る太陽は神々しい。まるで数十億年の時間をタイムスリップして、天地創造の場面に立ちあっている思いがした。(山岳カメラマン、岩橋崇至) [朝鮮新報 2005.1.1] |